新社長に伊勢丹出身の杉江氏が就いた。杉江氏は大西社長を支える立場にありながら、労組に担がれて社長の椅子に座った。労組による静かなクーデターが成功した。
杉江氏は新潟三越(新潟市)や三越恵比寿店(東京・渋谷区)など不採算店を閉めるなど構造改革を続行している最中にコロナの直撃を受けた。
三越伊勢丹HDの21年3月期の連結決算は売上高が前期比27%減の8150億円、最終損益は450億円の赤字の見通し。百貨店事業に対する依存度が高い分だけ赤字が大きくなった。百貨店事業の売上高予想は7450億円で連結売上高の9割を占める。
百貨店の三越伊勢丹(単体)は20年3月期に免税売上高が全店の売り上げの9%あった。なかでも銀座三越は売り上げの28%が免税売り上げだった。しかし、今期(21年3月期)はインバウンド需要が蒸発し免税売上高はほぼゼロになる。インバウンドが当面、戻ってくることはない。三越伊勢丹HDは20年11月に、22年3月期を最終年度とする中期経営計画を取り下げた。中計では不動産事業の強化を重点施策として挙げていた。計画の取り下げに伴い、不動産子会社の三越伊勢丹不動産を米投資会社ブラックストーン・グループに売却。21年3月期に71億円の特別利益を計上する。
三越伊勢丹は20年11月25日、旗艦店である伊勢丹新宿店でオンライン接客による店頭販売を始めた。細谷氏が岩田屋三越で取り入れていたオンライン接客の手法を取り入れた。専用アプリを使い100万品目を扱う。店舗の店員が商品を紹介、販売する点が普通のオンライン販売と一味違う。利用者はチャット上で予算や何を買いたいかといった希望をインプットする。すると店員からおすすめの商品などが返信される仕組みになっている。
小売り分野のIT活用で日本の3年先を行くとされる中国では、すでにオンライン接客が一般化している。三越伊勢丹HDの21年3月期のネット通販の売上高は前期に比べて48%増の310億円になるが、売り上げ全体の4%にとどまる見通し。激減する店舗売り上げや蒸発したインバウンドを補填するにはほど遠い。
細谷新社長は「すべてのお客様とデジタルでつながり、いろんな提案をしていきたい」と意気込む。オンライン接客は三越伊勢丹の再生の起爆剤となるのだろうか。不動産など多角化が遅れた三越伊勢丹HDが今、問われているのは、旧来の百貨店というビジネスモデルからの転換・脱却である。
(文=編集部)