キャリアプランを会社がバックアップする体制を整えたことは、確かに従業員としてはありがたいことだろう。
「『王将調理道場』と『王将大学』の導入は、フランチャイズ制度の一番の問題点ともいえる、本部とフランチャイズ加盟店店長の間に生まれる軋轢を激減させるという効果もありました。
そもそも両者の軋轢の代表的な例として労働環境の問題が挙げられます。例えばコンビニの場合、脱サラしてフランチャイズ加盟店店長になる人も多いですが、実態的には労働基準法から切り離されることや、“24時間365日、仕事のことを考える”という商売人の感覚がわからない。その感覚のギャップに苦しむことになるんです。
一方で、『王将大学』で研修を受けた従業員は、そういった商売人としての感覚が養われます。『王将調理道場』で料理人としての手腕、『王将大学』で経営者としての頭脳を身につけることができ、それが本部に認められて独立した店長であれば、本部との軋轢も生まれにくいというわけです」(中井氏)
しかしメリットばかりではなく、デメリットもあるのではないだろうか。
「もちろんです。従業員の育成をしっかり行い、キャリアプランをバックアップすることで、会社としての規模拡大のスピードが遅くなるというデメリットはあるでしょう。実際に、餃子の王将は全737店舗中、フランチャイズ加盟店の出店は214店舗(2020年3月末時点)と、フランチャイズ出店の比率がそこまで高いわけではありません。
反対に、コンビニのように徹底してマニュアル度を高めている業態は急速出店ができるため、店舗数を急拡大させやすいわけです。餃子の王将の現在の体制では、店舗数を一気に増やすということは難しいはず。しかし餃子の王将はそういったデメリットを覚悟のうえで、じっくりやっていったほうが会社としての足腰がしっかりすると判断しているのでしょう」(中井氏)
外食産業の未来にもつながる話である。実際に、餃子の王将のこの成功事例は業界内にひとつの流れを生むのではないか、と中井氏は続ける。
「外食産業に限らず、チェーン展開しているさまざまな業界のチェーン店は、この何十年、コストダウン化を進めてきました。どこの業界でも行われたのは、正社員を減らしてパート・アルバイトを増やすという手法。どのチェーン店も数十年前は大半が正社員だったのですが、現在は7、8割ぐらいをパート・アルバイトが占めているのが実情です。そして、それ以下に正社員の人数を削ることは不可能なので、給料を減らすことによるコストダウン競争をしてきましたが、それも限界を迎えている状況なのです。
だからこそ現在は“従業員の搾取”に重きを置くのではなくて、“あなたのキャリアアップのためにはこうしたステップを踏むことが必要で、その先のゴールはこういったものがあります”というストーリーを従業員に示さないと、人がついて来ないわけです。今後は、餃子の王将のような企業が増加し始めて、チェーン店全体が一歩成長していく過渡期に入ると予想しています。そういう意味で餃子の王将は、そこまで大規模な企業ではないものの、外食産業の未来を見据えて一歩先を進んでいるといえるでしょう」(中井氏)
ブラックな労働環境が常態化していた外食産業だが、餃子の王将はそういった現状を変革していこうとしているのかもしれない。
(文=A4studio)