少々古い話になるが、全国に緊急事態宣言が出されていた昨年のゴールデンウィーク前後に、大多数の銀行が人知れず定期預金金利を引き下げています。それまで年利0.01%だった1年物の金利は0.002%まで引き下げられたのです。
「小数点以下の世界だから、さして違いはないだろう?」と思われるかもしれませんが、たとえば100万円を預けた場合、その利息は100円から20円にまで低下しているのです。普通預金は年間10円の利息(金利:0.001%)ですから、利息額を比較すれば定期預金を利用する価値を見い出すことはできそうにありません。
ただ、政策金利はマイナス金利なうえ、物価も下落しているのだから、元本割れをしないだけマシ! といえそうですが、銀行はあの手この手で手数料という罠を仕掛けていることを忘れてはなりません。
そのひとつが通帳の発行手数料。みずほ銀行は1月18日から70歳未満の新規口座開設者から1100円の手数料を徴収、2月には横浜銀行、4月には三井住友銀行も手数料を徴収する予定で、他の銀行も追随するところが増えることが予想されます。仮に1年定期預金で通帳発行手数料を利息分で賄おうとすれば、元本が5500万円も必要になることから、大多数の人が口座開設と同時に元本割れを被ることになるのです。
手数料の高さが際立つのがコンビニATMの引き出し手数料。皆さんはお金を引き出す場合、どこで引き出すでしょうか。まさか引き出し手数料がかかるかたちでATMを利用していないですよね?
引き出し手数料は、時間外または他行の場合は1回110円、時間外に他行が重なれば220円と倍増されることから、1度でも引き出し手数料を支払えば見事に元本割れとなってしまうのです。
さらにコンビニATMからの引き出しでは注意したい。三菱UFJ銀行は2021年4月1日から、ローソン銀行のATM利用手数料を改定する予定です。同行のキャッシュカードを使用してローソン銀行のATMから引き出す場合、毎月25日と毎月末の8時45分~18時は110円から0円、それ以外の時間は220円から110円に変更されます。引き下げは朗報と思えるのですが、平日は8時45分~18時は110円から220円に、それ以外の時間は330円に値上げされるのです。ちなみに、同行のキャッシュカードでセブン銀行から引き出す場合は、すでに値上げ予定後の引き出し手数料が適用されているのです。
また、三井住友銀行も同年4月5日から手数料を改定します。毎月25日、26日の8時45分~18時は無料、それ以外の時間は110円になるものの、この2日を除くと平日8時45分~18時は110円から220円に、それ以外の時間は330円に改定される予定です。
ATMの引き出し手数料見直しは、三菱UFJ銀行、三井住友銀行といった大手銀行の動きにすぎませんが、この流れは他の銀行に広がることが予想されます。手数料体系をしっかり把握して、手数料を負担しないかたちで引き出せるように創意工夫を行いたいところです。知らずに1000円を引き出し330円の手数料を取られたら、泣くに泣けないではないか!
(文=深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー)
●深野康彦/ファイナンシャルリサーチ代表、ファイナンシャルプランナー
AFP、1級ファイナンシャルプランニング技能士。クレジット会社勤務を3年間経て1989年4月に独立系FP会社に入社。1996年1月に独立し、現在、有限会社ファイナンシャルリサーチ代表。テレビ・ラジオ番組などの出演、各種セミナーなどを通じて、投資の啓蒙や家計管理の重要性を説いている。あらゆるマネー商品に精通し、わかりやすい解説に定評がある。