昨年はコロナ禍がトリガーとなりアパレル業界の構造変革が急激に進んだ。業界全体の最適化に向けた苦しみの時期と理解したい。
コロナ禍が突き付けた多くの問題は、アパレル業界に危機感を強く自覚させた。消費者がアパレルに求める価値が大きく変化しているのは事実であり、低価格は当然となりつつある。人口減と単価の低下となれば、市場がシュリンクするのは避けられない。既存企業も淘汰、統合が進む。
そこで主要店の現場の売上や現状を検証してみたい。昨年11月、中旬以降の気温が下がらず苦戦したが、消費者の購買行動が大きく変わり、都心での購入が、郊外店、自宅近くの店舗やネットでの購入へと変わった。都心立地の多くの店舗の客数が対前年同月比2桁減となるなか、郊外立地をしっかり固めているユニクロは同0.8%増、しまむらは同11.4%増、西松屋チェーンは同8.2%増となった。注目のワークマンは昨年、全月で前年同月増を記録している。現在の店舗数の倍以上の2000店舗という目標も発表した。
アパレル産業が衰退産業ではないと思える萌芽もいくつか見えている。需要がなくなったのではなく、変化しているのである。都心のセレクトショップには、海外への転売目的の購入者が多くいる。インバウンド需要が消えても海外から日本への憧れ需要は消えていない。
新しいテクノロジーやSNSを利用したメーカー直販業態でも、メンズスーツのセミオーダーである「カシヤマ」「ファブリックトウキョウ」などが急成長を遂げている。近い将来には多くの個性的なブランドが生れて、新しい流通形態として成長するのは間違いない。
セレクトショップのビームスはBtoBのプロデュース事業を強化している。こうした事業は、社内に企画機能を持つアパレル企業であれば、社内のノウハウが他業種に活かせてリスクも少なく、収益拡大を見込める。アパレル独特の美的センス、VMD手法、集客などのネットワークを活かせる親和性のある業種は非常に多い。「ファッション感性の付加価値」を活かすシーンは、まだまだ広がるであろう。
暗いニュースばかりが大きく取り上げられるが、現在は業界構造の変革期だと意識すれば、大きな変化もポジティブに受け止められる。売却した本社ビルや厚生施設などは、業績が回復すれば購入可能である。アパレル業界だけでなく社会全体のパラダイムシフトが、全世界レベルで急速に進んでいる。目の前の出来事に一喜一憂するのではなく、マクロとミクロの複数の視点から、自社の立ち位置、事業目的を再定義し、最適化を具体的に考えてみるべきであろう。
常に新鮮な「価値」を提案し続け、時代の先端を走って来たアパレル業界は、自らの原点に再度、立ち返るべきである。その先には、まだ見たことのない新しい「価値」を生む業界の未来が待っている。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)