筆者は焼肉ライク社長の有村氏に、このキャンペーンの狙いについて昨年の12月2日に取材した。そこで、次のようなことを教えてくれた。
コロナ禍で既存店の売上は4月、5月の段階で前年同月比60%あたりまで減少した。その理由は、出店している場所がオフィス街に多いこと(住宅街の近くはこれほど減少していない)、「焼肉ライク」の知名度がまだ低いこと、ひとり焼肉という外食の仕方が知られていないこと――を挙げてくれた。
そこで採った戦術は「店の間口を広げる」ということ。ここから新たな需要や顧客層を取り入れていこうと動いた。
最初にアピールしたことは「環境に配慮している」ということ。従業員の検温と手洗いの徹底から、飛沫防止のためにアクリル板の仕切りを設定している等々のさまざまな原則的な内容に加えて、「客席全体の空気が2分30秒で入れ替わる」ことを随所でアピールした。
コロナ禍で最初に言われたことは「3密の回避」で、「焼肉ライク」はこれに最も適していると認識し、先の換気に加えて、お客様が自分で調理をすること、そもそも「個食」をアピールしていることから、「今こそ!!ひとり焼肉」キャンペーンの展開に至ったのだという。
この中でも10月23日から販売を行っているフェイクミートは、焼肉店にとって極めて先端的な試みといえる。フェイクミートとは植物性の代用肉のことで、ビーガンや健康に気遣う人が求める食品である。フードダイバーシティ(食の多様性)が進むアメリカでは一般的になっているが、日本ではコロナ禍以前、インバウンド対策の中で注目されていた。
「焼肉ライク」のフェイクミートはネクストミーツ株式会社が開発したもので、大豆たん白とえんどう豆たん白を組み合わせ、添加物を使用しないで肉の食味に近づけている。通信販売を積極的に行ってきた過程で知られるようになり、フードサービス業界でもこれを使用したメニューの事例が増えてきている。
有村氏自身、フェイクミートについてはアメリカの様子を興味本位で眺めていたとのことだが、ある人物からネクストミーツの佐々木英之社長を紹介されてその商品を試食したところ、その瞬間にこの食味に感動して「焼肉好きの人も喜ぶのではないか」と思い、いち早くフェイクミートをメニューに加えようと考えたという。
導入して以来、にわかに多くの反響があった。ビーガンや健康に気遣う人が来店するようになっている状況を見て、「もの凄い可能性を秘めているのではないか」と考えるようになったという。現在、有村氏は「フェイクミートの市場はこれから広がっていき、縮むことはない」と手応えを得ている。
冒頭、「『焼肉ライク』は『牛角』と同じスキーム」と述べたが、その一つは「飲食のFC」であることだ。飲食業でありFCビジネスなのである。具体的に「焼肉ライク」は2020年12月末段階で総店舗数50店、FCは45店舗である。「9割FC」という姿勢で邁進している。
最近の加盟店の傾向として電鉄系の引き合いが増えていて、すでに東急電鉄溝の口駅(神奈川)、近鉄鶴橋駅構内(大阪)、JR岡山駅の駅ビル(岡山)で「焼肉ライク」が営業している。これはこの業態が駅構内の立地との親和性が高いからだ。入店して15分か20分で食べ終わることができるので、時間を急いでいる人からは重宝されている。
このような立地開拓ができるのは物流の仕組みにある。カット済みのチルド肉が配送され、店内では盛り付けるだけ。365日物流を実現して、店には在庫を置かない。こうしてクオリティが高い肉をクイックに提供する仕組みが出来上がっている。有村氏はこう語る。
「今後当社はFC展開を推進する企業として存在し、例えばキャッシュレス決済とか、立地、提供方法の進化系のトライアルは直営で試していき、軌道に乗った場合はFCで展開していきます」
筆者はコロナ禍の中で「焼肉ライク」が取り組んできたことは、そのあるべき姿をより鮮明にしてきたと思っている。それは「ファストフード」ということ。「こだわりの食材で差別化する」世界ではなく、より気軽に利用できる店ということだ。
フードサービス業界はコロナ禍によって大きな変革を迫られたが、「焼肉ライク」の場合は同社の展望の土台を築いたといえるだろう。
(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)
●千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。