リモートワーク前提時代、従来の人事評価は通用せず…“役立たず”化するマネージャー層

 当たり前だが、在宅勤務では馴染んだ職場とは違い、それぞれが自宅からモニター越しで会議をするようになれば、5W1Hをしっかり伝えなくてはならなくなる。日本人はよく外国人から「何を言いたいのかわからない」という批判を受けてきたが、日本国内で働く上でも同様の批判を受けることになったというわけだ。

「私がコンサルティングした経験からいうと、マネージャー以上のレベルの人で口頭での指示だけでなく、文章できっちりと伝える能力が低い人が想像以上に多い。リモートワークで必須のメール作成にも時間がかかっているのが現状です。ましてやITツールを利用した指示連絡はなおさら。これまで多くの人が情報整理を特定の部下や同僚に頼ってサボってきたのがバレてきたということでしょう。客観的に見て、リモートワークにスムーズに移行できたマネージャーは、全体の2割もいないのではないでしょうか」

 海外で日本より先にリモートワークが普及した理由として、日本企業は個々人が担当する業務内容が曖昧な一方、他の国では職責が決まっていることが多いことが大きな理由だといわれる。会社内での役割分担が決まらない背景には、企業全体として取り組むべき目標設定が曖昧で「どのような組織にすればそれを達成できるか」という意識が経営幹部などマネジメント層に低かったこともあるだろう。「会社の存続」が至上命題で、上司や先輩に恥をかかさないよう前例を踏襲して、目の前の仕事をこなしていれば「仕事をしているように見える」面があったのは否めない。

「リモートワークの導入で『本当に必要な仕事は何か』という見方が強まり、明確なアウトプットが求められる風潮が強まり、ゴマカシが効かなくなった。新しいことが苦手な人、臨機応変に対応できない人も可視化されたと思います」

時間単位の管理はイケてない

 リモートワークを導入した企業の中には、トイレに行く時間や食事に行く時間も厳密に管理するシステムを採用する向きもあるが、藤川氏によると愚の骨頂だという。

「こういう企業は表面的に在宅勤務を採用しただけで、リモートワーク時代は『座っている=働いている』という感覚が通用しなくなるということを、まったく理解していない。実際には1日、2日くらいボーっとしていても期日にはしっかりアウトプットを出せれば、まったく問題ないわけで、モニターに顔が映っている時間とかタイプしたデータ量とかで評価するというのは完全な間違いです。

 では、どういう人事評価がいいのかというと、個人個人にあった評価軸をつくるしかない。私の経験からいうと、まず一人一人がある一定期間働いてもらった中身を精査して、最高と思われるパフォーマンスのレベルをみるところから始めます。そこから明らかに落ちていれば、仕事をしていないということになるし、精神的な要因があるのならメンタルケアをすればいい。リモートワークを導入すると慣れない部分もあるでしょうが、できなかった部分をすぐにフィードバックして合わせて修正していけば大概の人はできるようになります。

 個人個人にあった評価軸をつくるのは手間がかかりますが、そもそも手持ちの戦力を把握して配置するのが経営陣の役割。これまで時間を評価軸としてきたのは、曖昧な指示でも現場の個々人の努力や負担に依存できたからですが、これはもう通用しない手法です。さらには、評価されないなら有能な人ほど離職傾向が強まるでしょう」

「使えないオッサン」は人事の問題でもある

 リモートワークの拡大で、にわかに話題となっているのが「使えないオッサン問題」だ。アウトプットによる評価が高まると、会社に来るだけで仕事をしているとみなされてきた50代以上のオッサンのパフォーマンスの低さが暴かれてしまったと各種メディアで話題になっている。確かにリモートワークという新しい働き方になじみのない世代にとっては脅威といえるだろう。ただ、藤川氏は「使えないと切り捨てるのは簡単だが、そんな理想的な人材ばかり獲得できれば苦労はしない」と異議を唱える。