今回は、販売者側が意図的に商品供給を絞り価値を高めるエルメスのバッグのような販売手法とも違う。そしてナイキのコラボアイテムほど購入者間での盛り上がりは見られなかった。
では、この事実から何を我々は学ぶべきであろう。マーケティング的な視野から見れば、いくつかのミスマッチが見える。ユニクロ側からみれば「数量」の最適化は、成功ではなかったかもしれない。今回の行列の一因に、口コミの広がりがあげられるのは事実だが、初日完売は供給側の予測と需要が乖離するという嬉しいミスだったのかもしれない。この点は検証されるべきであろう。
そして「価格」の最適化という面では、ユニクロの意図した価格より消費者側の評価がより高かったといえる。メルカリで高値販売品が消化されつつあるのは、その証左である。
昨今は、2次流通と呼ばれる古着市場、限定商品の再販市場が大きく伸長している。特にデニム、スニーカー商品では、新製品の販売価格以上の高価で通用している。ファッションの価値は本当に多様であり、かつ人間の根源的欲求に沿っていて消滅することはない。
悲観論ばかりが語られるアパレル業界であるが、今回の「+J」の熱狂には活性化のヒントがあるのではないだろうか。
まず、若者たちのファッションへの潜在需要がしっかりとあることが再認識された。価格設定も、ユニクロ価格でなくとも商品に魅力があれば適正な価格で求める消費者が多く存在する、つまり供給側が商品づくりを他人任せにせず、真剣に魅力的な商品を提案すれば需要は生まれることが裏付けられた。
安さだけでない価値が認められること。ファッション商品の素晴らしい付加価値は、なくなっていない。着るだけで高揚する気分をもたらす服は消滅するはずはない。しかし、供給側の怠慢が招いた同質化、低価格競争のための大量発注などからの脱出にこそ可能性があることを、今回の騒動は業界に問題提起してくれたのではないか。
常に新鮮な「価値」を提案し続けてきたのがアパレル業界である。自らの原点に再度、返るべきである。その先には、未来が必ずある。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)