そういえば大戸屋・丸の内新東京ビル店に昨年訪問した時、日本人の店長らしき人が外国人スタッフに罵声を浴びせながら指導していたシーンを思い出した。それもお客様のいる前で。指導している場面をお客様に見せたかったのかもしれないが、おそらく逆の評価を得たことであろう。なぜなら多くのお客様が食事を済ませるとそそくさと店を出ていた。食事をする場所で居心地がよくなければ、どんなにおいしいお料理でも、おいしさは感じられない。おいしさはお店の雰囲気やスタッフの接遇次第で大きく変わる、と私は思っている。
話を「かつや」に戻そう。新橋店は調理スペースが十分確保され、お客様からもスタッフの調理風景や動作を確認することができる。まるでステージを見ているようだ。スタッフがステージ上で演じている。いや、魅せている感覚を受ける。
新橋店では人気商品のひとつであるとん汁もカウンターに近い場所に鍋が配置され、香りでもお客様を魅了している。もうひとつの強みは、期間限定商品である合い盛りシリーズの展開だ。多くのブログでも取り上げられるほどボリューム感を持っている。私のおすすめは合い盛り商品の定食である。どんぶりでは今にもどんぶりからこぼれんばかりのはみ出し状態で提供されるが、定食では見た目も麗しい食欲をそそる出来栄えを見せる。そして極めつけは汁ものとしてとん汁が提供される。ここも大きなポイント。
揚げ物は自宅での調理や片付けも大変であることから、とんかつと唐揚げは外食や中食のボリュームゾーンとなっている。巣ごもり需要を反映して鉄板焼き系や圧力鍋系の調理家電販売が好調であると聞く。油を使わず高温熱風を使って揚げるノンオイルフライヤーも家庭用調理機器としてテレビ通販でよく目にするが、とんかつと唐揚げはやはり油調理で作るほうが人気であるし、なにより旨い。
一方、弱みと想定されるものが合い盛りシリーズで展開されるボリューム感を前面に出した量の問題だ。そのためか店舗を訪問すると、年齢構成でいえば高齢者を見かけることが少ない。本当は高齢者にも食べてもらいたい肉料理のひとつなのだが、揚げ物であることや量目の点で控える高齢者層が多いのではないだろうか。私の両親も若いころは子供たちをダシに、とんかつを食べに出かけていたが、高齢になるとカロリー高や胃がもたれるといって敬遠している。
近年デジタルクーポンが全盛の時代であるが、高齢者はデジタルが苦手の人が多い。紙のクーポンであることから、高齢者層の利便性は高いと感じる。
10月16日から全店販売開始された「全力ご飯」は普通のチェーン店が値引きで訴求する戦略をとるなかで、定食価格プラス200円で3種類のご飯が楽しめる仕掛けとなっている。それもかなりボリュームアップして。「かつや」ファンの多い20から30代の男性客が喜ぶ設定となっている点も大きなポイントだ。コロナ禍にあって値下げキャンペーンを展開しているチェーンが多いなか、「かつや」の大胆な取り組みには興味津々だ。
11月19日から販売された数量限定商品である「どっさりベーコンとチキンカツの合い盛り丼」は、翌日食べにいったが、すでに完売となっていた。15万食限定という初の食数限定の試みであったが、なんと1日で瞬間蒸発していた。話題性という面では、勝るものはないだろう。
1000円以下の価格帯であっても消費者から選ばれる価値を持つ「かつや」。こだわりを実践する姿勢と、丁寧な店舗調理は家庭では絶対に再現不可能なレベル。まだまだ、「かつや」の快進撃は止まることはないなと、私は感じた。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)
●重盛高雄
ファストフード、外食産業に詳しいフードアナリストとしてニュース番組、雑誌等に出演多数。2017年はThe Economist誌(英国)に日本のファストフードに詳しいフードアナリストとしてインタビューを受ける。他にもBSスカパー「モノクラーベ」にて王将対決、牛丼チェーン対決にご意見番として出演。最近はファストフードを中心にWebニュース媒体において経営・ビジネスの観点からコラムの執筆を行っている。