この間、東京ドームは支援企業を探してきた。三井不は、読売新聞グループ本社からの紹介を受けて6月に東京ドームに買収を打診し、8月以降、協議してきた。かくして、三井不と読売新聞が「ホワイトナイト」(白馬の騎士)として名乗りを上げた。
今後の焦点は大株主のオアシスの動向だ。オアシスは三井不によるTOBについて立場を明らかにしていない。オアシスは「全株式を1株あたり1300円で買い取る意向がある」と東京ドーム側に伝えていた。オアシスは三井不のTOBに応じるか、それとも三井不のTOB価格(1300円)を上回る価格を提示して敵対的TOBに打って出るか。オアシスが価格引き上げ競争に持ち込み、高値で売り抜けることもあり得る。
東京ドームは東京・水道橋で敷地面積13万平方メートルの複合施設「東京ドームシティ」を運営する。商業施設、遊園地、ホテルなどがあり一帯の主要資産の簿価は1月末時点で2000億円に迫る。21年1月期の通期業績は新型コロナウイルス禍によるコンサートの中止や、プロ野球公式戦の観客数制限などが響き売上高は前期比57.4%減の390億円。連結最終損益は180億円の赤字(前期は80億円の黒字)を見込む。
東京ドームの最大の悩みは施設の老朽化である。1988年に開場し今年で32歳になる。すでに旧式な野球場となっている。野球の本場アメリカでは野球場の呼び方がスタジアムからボールパークに完全に変わった。試合重視の意味合いが強いスタジアムに対して、ボールパークはエンターテイメント性に力点を置いているのが特徴だ。
東京ドームの老朽化もあって、巨人の本拠地問題は長らく懸案事項となっていた。東京中央卸売場の豊洲移転に伴う跡地を利用した築地新球場計画が、最も現実味のある候補地として浮上しており、「かなり具体的に進んでいた」(東京都庁の関係者)。
しかし、16年、小池百合子東京都知事が誕生。この計画を打ち砕いた。小池知事は、築地市場跡地は「食のテーマパーク」にするとの構想を打ち出し、築地新球場計画は振り出しに戻った。三井不の完全子会社となり、読売巨人軍の本拠地である東京ドームは悲願としてきたボールパークに生まれ変わることになるが、「巨人軍が最先端の動画のコマーシャルなどにノーだったことも影響している。東京ドームの経営陣と読売巨人軍の共同責任」(プロ野球、セ・リーグの関係者)といった内部の声もある。
東京ドームがボールパークから3周遅れとなった責任については別の視点から議論したほうがいい。だが、「日本シリーズで巨人軍がソフトバンクホークスに4連敗(昨年の日本シリーズでも4連敗)、完膚なきまでに叩き潰されたのと東京ドームの巨額TOBは連鎖している」(前出のセ・リーグ関係者)との見方もある。
(文=編集部)