日経BP 総合研究所 未来ラボ 上席研究員・谷島 宣之さんは記事、『「デジタル人材」を巡る人事部の誤解』の中で、「これから社会が変わっていく」という誤解を正すよう指摘しています。そう、社会のほうがとっくに変わっているのです。昔は、実験室からもってきた軍事用の製品が民生用よりはるかに優れていました。往時、米国の軍事規格MIL規格が圧倒的に最先端の技術水準(精度、速度、耐久性……)にあり、民生用は何年も後に、そのおこぼれにあずかる感じでした。しかし、コストゼロでコピーし、広められるソフトウェア、デジタルデータが支配する時代には、個人向け、一般消費者向けのほうが性能で先行しがちです。5万円のスマホに1億画素オーバーのカメラや高度なAI機能が搭載されたりと、枚挙にいとまがありません。
古い情報システムをもった企業のほうこそ、一般人の個人生活、社会生活を激変させたITインフラをうまく取り込んで必死にキャッチアップしなければならない時代といえるでしょう。スマホを複数使い分ける煩雑さに大半の人は耐えられないから、BYOD(Bring your own device)と呼ぶ、個人スマホを会社業務に使う。
しかし、悪しき公私混同による情報漏洩リスクも同時に抱え込むことになり得ます。良い公私混同で、プレッシャーなく、個人生活から創造的なアイディアを生み出すような社員を増やせたらどんなに良いでしょう。正しいDXを考えるとき、周辺や形から入るのではなく、デジタル人材をパワーアップするという中核から攻めるべきではないでしょうか。
(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)