家電量販店は“ウイズコロナ”に向け、経営トップの世代交代が進む。
最大手のヤマダ電機は10月1日、持株会社ヤマダホールディングス(HD)体制に移行。事業会社で社長を務める三嶋恒夫氏が同日付でヤマダHD社長に就いた。創業者の山田昇氏はヤマダHDの代表権のある会長に就き、グループ全体の経営を引き続き指揮する。三嶋氏はヤマダHDと家電事業会社、ヤマダデンキの社長を兼務する。
ビックカメラは9月1日、子会社のコジマ会長兼社長でビックカメラ取締役の木村一義氏が社長に昇格した。宮嶋宏幸社長は同日付で代表権のない取締役副会長に退き、11月19日に退任する。宮嶋氏は15年の長期政権だったことに加え、2期連続の最終減益になったため退任を申し出たという。
木村氏は日興証券(現SMBC日興証券)を経て、12年にビックカメラに入社、13年、子会社にしたコジマの会長兼社長に就任。郊外店に強みを持つコジマを立て直した。「店舗とネットの連携を進めるほかプライベートブランド(PB)を強化。コスト削減と利益率の向上という二兎を追う」(木村氏)。
ヨドバシカメラは7月1日付で藤沢和則副社長が社長になった。創業者の藤沢昭和社長は代表権のある会長に就いた。社長交代は1960年の創業以来、初めてだ。和則氏は昭和氏の長男。ネット通販事業を主導してきた。ネットと実店舗の融合を進める。昭和氏は持ち株会社、ヨドバシHDでは引き続き社長を務める。
ヨドバシカメラはネット通販にいち早く進出した。和則社長がヨドバシに入社後、IT(情報技術)や物流部門の責任者として業務の改革を担当。1998年、ネット通販に新規参入した。楽天市場のサービス開始は97年、アマゾンジャパンが登場したのは2000年。国内はECの黎明期だった。この頃はカタログ通販が全盛だった。アパレルやスポーツ用品などを扱うカタログ通販が無数にあったが、「ネットを使って通販を始めれば、これの代替になると思った」と、和則氏は語っている。
ヨドバシカメラのECサイト「ヨドバシ・ドット・コム」は、他社を圧倒した。20年3月期のネット通販の売上高は1385億円。全社売上高6931億円の2割を占める。EC売り上げランキング2020年版(通販新聞調べ)では2位。
アマゾンは食料品や生活用品などあらゆるものを売っており、1兆7433億円。規模が違いすぎるが、家電量販店ではヨドバシが先行している。他社はヨドバシの足元にも及ばない時期が長く続いた。ちなみに3位はZOZO(1255億円)である。
今期はネット通販が爆発的に伸びるのは確実だ。ヨドバシは19年4月、アウトドア専門小売りの石井スポーツを買収した。M&Aに手を出さなかったヨドバシが買収に乗り出したのは、通販でアウトドア用品の取り扱いを強化するためだった。18年末には酒類の販売を始めるなど、家電以外の商品の品揃えを増やしている。
ヨドバシは「打倒アマゾン」を旗印に掲げ、自社の社員が最短2時間30分以内に配達する「ヨドバシエクストリーム」を始めた。購入額によらない送料無料、追加料金なしで注文当日に配送するのがヨドバシの強みだ。
家電量販店のライバルは今や米アマゾン・ドット・コムなどのネット勢となった。これまでヨドバシを除き家電量販店はネット進出に消極的だった。大量に仕入れ、それを売り切ることで価格を安くした成功体験が邪魔をした。売れ筋の商品を重点的に仕入れ、それを店舗で安く売るというビジネスモデルで業績を伸ばしてきた。多くの商品を網羅するネット・ビジネスは苦手である。どの家電量販店もネット通販に本格的に手を出さなかったのは、ビジネスモデルが真逆なことが底流にある。
ここへきて家電量販店は生き残りを賭けてネット通販に本腰を入れ始めた。若い消費者は家電量販店で実際に商品を見て、その商品が一番安いところをネットで探す。家電量販店がショーウインドウ化したからだ。
ビックカメラは3月に千葉県船橋市にある倉庫のネット通販用のスペースを1.7倍に拡張し、発送能力を出荷量ベースで2倍に高めた。18年からは楽天と共同で通販サイト「楽天ビック」を運営している。18年7月、配送会社のエスケーサービスを買収したのもネット通販への布石である。
20年8月期のビックカメラのネット通販の売り上げ(ビックカメラ、コジマ、ソフマップの合計)は前期比37%増の1487億円と急増した。22年8月期にはネット通販の売上高を2000億円まで高め、ビックカメラ全体の売上高の2割まで引き上げる計画だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で情勢が一変した。ヤマダHDもネット通販で追随してくるだろう。経営トップの世代交代とネット重視。荒波を乗り切るのはどこだ。
(文=編集部)