ニトリ、“割安な”島忠へ対抗的TOBで争奪戦過熱…「ニトリ、首都圏勝利」総仕上げへ

 DCMのTOB価格は1株4200円、総額約1600億円。島忠の純資産(1815億円、8月末)を下回る。ニトリは「こんな割安の水準なら、勝負できる」と確信した。ニトリがDCMより1300円高い5500円を提示した背景には、「島忠株がDCMによって割安に評価された」(流通担当のアナリスト)ことが挙げられる。

旧村上ファンドが島忠株を取得

「物言う株主」を含めた複数のファンドも島忠株を取得している。旧村上ファンドの村上世彰氏がかかわる投資会社シティインデックスイレブンスは10月21日、島忠の発行済み株式の8.38%を取得したことを明らかにした。これに先立つ同月14日、島忠の岡野恭明社長に書簡を送り、「TOB価格が本来価格に比べて割安ではないか」との疑念を伝え、島忠の株主へのいっそうの配慮を求めた。

 シティインデックスイレブンスは「島忠がDCM以外の買い手を模索した形跡がない」と批判したが、島忠が「ニトリとも誠実に協議を行う」との態度を表明したことを踏まえ「株主としてうれしい」と評価した。ニトリがDCMより1300円高い5500円を提示したことで、ファンドに高値で売り抜ける絶好のチャンスが訪れた。

「お値段以上の島忠」の買収に強い意欲

 北海道発祥のニトリの東上作戦の総仕上げは、首都圏決戦で勝利することである。ニトリ創業者の似鳥会長は16年ごろ、今回辞任することになった大塚家具の大塚久美子社長と会食した。「それとなく買収を打診した」と似鳥氏自身が語っている。久美子社長が創業者の父親である勝久会長との権力闘争に勝利して鼻息が荒かったときだ。久美子社長は似鳥氏のオファーに乗ってこなかった。真意が伝わらなかったわけではあるまい。策士といわれる似鳥氏の言動だから警戒された、と関係者はみている。大塚家具は19年末、ヤマダ電機(現ヤマダホールディングス)に支援を求めた。似鳥氏の大塚家具獲りの“熟柿作戦”は失敗に終わった。

 次にLIXILグループ傘下のホームセンター、LIXILビバの買収に動いたが、すぐに白紙に戻った。LIXILビバは「(ニトリは)大きすぎて飲み込まれる」と難色を示したと伝わる。LIXILビバは今年6月、新潟県地盤の同業アークランドサカモトのTOB提案を受け入れた。買収総額1000億円の「小が大を飲み込む」買収劇となった。

 ニトリは17年ごろ島忠に提携協議を持ちかけたことも明らかになっている。低価格の家具に強みを持ち、日用品を幅広く扱うニトリにとって、ホームセンターと高級家具を融合した島忠は「うらやましいと思い、尊敬していた」(似鳥会長)相手だ。同会長は「ニトリと商品開発のノウハウなどを共有すれば、『お値段以上の島忠』を実現できる」と、買収に並々ならぬ意欲をみせている。

 DCM、ニトリの双方から熱烈なラブコールを送られた島忠の経営陣は、厳しい対応を迫られることになる。ニトリのTOBに反対推奨すれば、旧村上ファンドから「なぜ、より高値を提示したニトリ案に反対するのか」と批判される。ニトリに軍配を上げれば「DCMのTOBに賛同した経営陣の判断が早計過ぎたのではないか」と経営責任を問われることになりかねない。「どちらにつけばいいのか、わからない」(島忠の関係者)、立ち往生の状態なのだ。

“後出しジャンケン”のニトリは、首尾よく「お値段以上の島忠」を手に入れることができるのだろうか。まだ、一波乱も二波乱もありそうな気配だ。

(文=編集部)