「仮の話ですけど、仮に不正なことをされている議員の方がいらっしゃったら、それを見つけやすくなるのは、普通の一般の方と全く同じです」
――政党助成金や政務活動費の使い道の監視に「マイナンバー」を活用することはできないんですか?
「『マイナンバー』は税の手続きでしか使えませんので」
――「ごまかしは許さない」という観点が必要なのは、納税でも、税の使い道でも一緒だと思うんです。
「税の手続きに関しては皆、一緒です。不正をやっている人を見つけやすくなるのは変わらないです。ただ、政党助成金や政務活動費の報告の際に『マイナンバー』を使うことはないですね。『マイナンバー』を付けても、あまり意味がないような気が……。(使い道が)本当か嘘かみたいな話を『マイナンバー』で炙り出すことは、難しいですよ」
――「マイナンバー」で捕捉できるのは、カネの流れです。
「『マイナンバー』を書くことで何かできそうなのは、どっちみち、(政党ではなく)議員なり、事務所の話です」
――議員の事務所に「マイナンバー」って付くんでしたっけ?
「いえ、事務所には付きません。企業には『マイナンバー』が付きますけど」
――肝心なのは、政党助成金や政務活動費の原資が税金であり、いかがわしい使い方をする政治家は許されないということです。
「『マイナンバー』は法律で使える範囲を限定していまして、政治の世界とか選挙の世界では使うことになっていないんです。万能じゃないんですよ。『マイナンバー』があれば世の中の不正がすべからく炙り出せるかというと、そうではないんです」
――万能ではないとしても、より広く国民から支持されるような活用方法があると思います。
「それは、法律を改正すれば、今、決まっていない別の事務にも使えるので、それに国民の大半が理解をされれば……」
――もしくは、そういう主張をする政治家なり、政党が現れたりすれば、そうした活用方法も可能である?
「その可能性はあるかもしれません。今の政府では、そこまでは……」
――今は万能ではないけれど、政党助成金の使い道や政務活動費の使い道の監視に「マイナンバー」を活用せよという方向に、国民の総意が向かっていけば、使えるようになるということですね。
「はい、はい」
「今の政府」すなわち、当時の第2次安倍晋三政権(2012年12月~2020年9月)の間は、政党助成金の使い道や政務活動費のチェックに「マイナンバー」を活用することはできない、というのだった。
このやり取りから5年が過ぎた今年11月、マイナンバーの交付事務を担当している総務省の住民制度課に「マイナンバーカード」の普及率を尋ねたところ、2020年11月1日現在で21.8%にとどまるのだという。
では、「マイナンバー」制度に賛成し、率先して「マイナンバーカード」を取得しているはずの国家公務員や官僚、そして国会議員における普及率はどうなっているのか。再び総務省住民制度課に尋ねたところ、「こちらではそうした数字は持ち合わせていない」との返事。ならば、菅義偉首相はすでに持っているのか。答えは、「ちょっとこちらでは把握していません」だった。
9月25日、菅首相は「第3回マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」の席上、「今から2年半後の令和4年(2022年)度末には、ほぼ全国民に行き渡ることを目指し、普及策を加速してまいります」と発言したのだという。まさか菅首相がまだ「マイナンバーカード」を持っていないとは思えないので【注】、「マイナンバーカード」を作ったことでこれまでにどれほど便利な思いを享受できたのか、ご自身の体験を語ってみてはどうだろう。
(文=明石昇二郎/ルポライター)
【注】時事通信によれば、菅義偉首相は11月4日の衆院予算委員会で、マイナンバーカードは持っているものの、マイナポータルには申し込んでいないことを明らかにしたのだという。