根強いトランプ支持、背景に米国の「自己愛過剰社会」化とナルシシストの急増

「エピデミック」という言葉は、新型コロナウイルスの流行で有名になったが、「ある集団内の非常に多くの個体が罹患する病気」である。アメリカではナルシシズムがまさにこれに当たるというわけで、同書によれば、自己愛的なパーソナリティの特徴を示す人は1980年から現在まで肥満と同様の速さで急速に増加している。

 しかも、2000年以降、その増加傾向に拍車がかかっており、「アメリカでは20代の人のおよそ10人に1人、全年齢の16人に1人が自己愛性人格障害と診断された経験がある」という。その象徴がトランプ氏なのだ。

 アメリカが「自己愛過剰社会」になったのは、自尊心を持つことや自分を好きになることを重視し、自己表現、自己賛美、自己宣伝などを推奨しているうちに、その副作用として自己陶酔したナルシシストを大勢生み出したからだろう。

 ナルシシストが大好きなのは勝つことであり、何よりも耐えがたいのは自己愛が傷つくことである。だから、トランプ氏が敗北を受け入れられず、扇動的なふるまいをする可能性は十分考えられる。その結果、傷ついたプライド(誇り)を取り戻したい「プラウド・ボーイズ」をはじめとする支持者が暴走するのではないかと危惧せずにはいられない。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

片田珠美『高学歴モンスター』小学館新書、2018年

ジーン・M・トウェンギ、W・キース・キャンベル『自己愛過剰社会』桃井緑美子訳 河出書房新社、2011年

Glen 0.Gabbard : Two Subtypes of Narcissistic Personality Disorder. Bulletin of the Menninger Clinic.53, 527-532. 1989 

Bandy Lee ( edited ): “The Dangerous Case of Donald Trump : 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President”ST. Martin’s Press. 2017