すでに、金融ビジネスは、世界的なIT大手企業の事業ポートフォリオを構成する一つの分野になっている。銀行がそうした変化に対応するには、銀行自らの改革によって収益力を維持しつつ、データ分析や健康など非金融業の企業が取り組む事業分野にも進出することが必要になる。そう考えると、週休3日制度などの導入を目指す背景には、組織の変革を促し、「“普通の企業”としての成長を目指さなければならない」との経営陣の考えが込められているとみられる。
それに加えて、分散型のネットワークテクノロジーであるブロックチェーンの有効性が明らかになった影響も大きい。その意義の一つは、いつ、誰が、情報を書き込んだかをネットワークの参加者すべてが確認し、承認することだ。その技術を用いることによって、企業は業務運営にかかるコストを低減させることができる。
現在、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行がブロックチェーンを用いて貿易金融の電子化を進めている。従来、貿易金融分野では紙ベースで銀行が信用状(L/C)を発行し、輸入業者の支払いを保証してきた。記載漏れなどがあった場合には、作成し直さなければならなかった。
しかし、輸出入業者と双方の取引銀行がシステムを共有し、一連の業務をブロックチェーン上で実行することによって、人手をかけず、迅速に、信用状の作成状況を確認する運営体制が目指されている。週休3日制度などの導入によって、ある意味では、システムが人の仕事を代替するようになったとの危機感を与え、個々人に自己変革を促しているといえるだろう。
このように考えると、大手行のなかで先駆けて週休3日、あるいは4日という具体的な働き方の改革案を示した取り組みは注目に値する。最大の問題は、労使間で賃金と就業日数(時間)の関係をどうバランスさせるかだ。
ドイツでは主力である自動車産業の苦境に対応するために、金属労組が週休3日を提案した。メルケル政権は、労働時間の削減と部分的な賃金補償が雇用の維持に重要と考えている。それに対して、経営者は部分的な賃金補償を導入した週休3日制度には慎重な姿勢を示している。そう考えると、銀行のトップが今後の労使交渉をどう進めるかは、日本の銀行業界だけでなく他の企業にもかなりの影響を与えるだろう。
今後、IT先端企業を中心に、非金融企業の金融ビジネス参入は続き、競争は激化するだろう。IT技術の活用に関しては、銀行よりも、IT企業などに競争上の優位性がある。そう考えると、銀行は他の業種の企業とのアライアンスなどを強化せざるを得ない。
その取り組みが続くと、将来の銀行のビジネスモデルは大きく変わるだろう。イメージとしては、IT先端企業がより専門的な銀行サービスを提供するようになる一方で、従来型の銀行サービス(店舗やATMを運営して預金、融資、決済などのサービスを提供すること)への社会的な必要性が低下する展開が考えられる。IT企業にはないサービスを提供することが難しい銀行は淘汰される可能性が高まる。反対に言えば、みずほ銀行などは、米中IT先端企業のような存在を目指し、新しい需要を生み出していかなければならない。
銀行業界の週休3日制度が組織全体の活性化につながれば、グループが長期の存続を目指すことは可能だろう。反対に、組織内部に不安心理が広がる場合には、変化への対応は難しくなる恐れがある。今後、銀行経営陣に求められることは、組織を一つにまとめ、改革の意義と成果を組織全体が実感できる環境を実現することだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)