新型コロナによる死亡者数、日本が欧米の約50分の1だった理由…だが医療体制に問題あり

 厚生労働省は、日本の医療機関の約7割を占める民間病院に対して、病院開設の許認可や診療報酬改定を通じて影響力を行使できるが、「病床をコロナ専門にせよ」と診療内容の変更を指示する権限がないのである。地方自治体は公立病院をコントロールできる権限を有しているが、実際には十分に活用されなかったようである。

 このため欧米に比べ死者数が圧倒的に少ないのに、新型コロナの第1波襲来の際にコロナ感染対策病床が一時的に不足する都道府県が発生してしまった。「欧米のような感染爆発が起きていたら、全国各地で医療崩壊が起きていたのではないか」と思うと背筋が寒くなる。

「いざ」というときに機能しない日本の医療体制

 252の国を対象に新型コロナウイルス感染症対策についての評価を行った香港のNPOは10月9日、最も安全な国としてドイツを選んだ。これまで9000人以上の死者を出しているドイツだが、「社会全体の新型コロナウイルスへの対応態勢が最もよく整備されている」と評価されたのである。

 ドイツの人口当たりの病床数は日本の7割弱にすぎないが、ドイツの病院の65%が公立病院などである。病院の存在は「公」とみなされ、政府が指揮命令権限を保持していることから、数週間で一般の病床を新型コロナ専用の病床に切り替えることができたのである。具体的には、各市町村にひとつのクリニックをコロナ専門クリニックに指定するとともに、広域地域ごとにコロナ感染症専門病院を一つずつ配置した。これが功を奏して、死者数が日本の15倍になったのにもかかわらず、医療体制は常に余裕があったという。

 ドイツをはじめ欧州の国々では、病院のほとんどを自治体が運営していることから、柔軟な運用が可能である。本当に必要なときに瞬時に体制が変えられる、「いざ鎌倉」の態勢ができているのである。

 日本ではPCR検査体制の不備ばかりに注目が集まっているが、「いざ」というときに機能しない日本の医療体制全体にメスを入れない限り、次のパンデミックを乗り越えることができないのではないだろうか

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)