しかし、実質無借金経営で投資余力はある。レナウン側の管財人弁護士は永沢徹氏で、09年に破綻した小杉産業の管財人も務めた人物である。小泉産業グループの植木会長とのパイプも信頼関係もあった。当初に希望したアーノルド・パーマーの譲渡は、本国からの条件もあり残念ながら折り合わなかったが、主要5事業の譲渡契約締結を決断した。
日本MJ新聞のインタビューで植木会長は「今後、グループ各社で手掛けているECプラットフォームを、『モール』のような形で共通にする構想を考えている」、「自社のECモール比率はまだわずかなものでレナウンのECを取り込んで強化する」とも答えている。残念ながらレナウンのECは、客観的にみて売上比率、商品内容、販売方法のどれも成功とは程遠い。
9月30日をもってレナウンのECサイトは一旦サービスが停止された。在庫の見切り売場でしかなかったこのECを魅力あるサイトに再生させるのは容易ではない。ブランディングが決して得意とはいえない小泉産業グループにブランド再生の勝算はあるのであろうか。
昨今の報道どおり、オンワードホールディングスの追加大量閉店を筆頭に、地方百貨店での撤退が続いている。たとえば福島県内最大の百貨店、うすい百貨店(郡山市)は1階にルイ・ヴィトン、ティファニーなどの高級ブランド店が出店している。しかし7月にはアクアスキュータム、8月には紳士服のカルバンクライン、婦人服の組曲、23区、自由区、iCBなどが閉店。地方の百貨店では売場を埋めるのに大変苦労している現状がある。
そこで発想を真逆にし、その地方百貨店の顧客である40歳以上にブランド認知があるレナウンブランドを大変革させて挑戦させてはどうか。商品企画は根底から変え、価格戦略的には、高い消化率を大幅に低く設定。ポップアップ店舖であっても出店条件の交渉余地は大きく、損益分岐点はぐっと低くなる。さらに、FacebookやLINEなどのSNSで毎日情報を配信する。地方テレビ局や地方新聞への広告出稿料金は大きく値下がりしている。まずは集客を地域の4大メディアでスタートし、SNS、そして見やすい自社ECサイトへの誘導を最終目標とする。
小泉産業グループには、生産、流通、販売機能はすでに揃っている。追加するのは、セグメントに合った商品企画、販売員へのSNS教育と強気の営業だけだ。この時期の出店なら、百貨店側からの協力も大きい。採算性の取れない都心の一流百貨店の売場からスタートするオールドスタイルは向かない。裏道かも知れないが、30万人から50万人の都市の百貨店をしっかりと攻めれば、ブルーオーシャンとなる可能性も充分ありえる。
混迷のファッション業界でこそ「人の行く裏に道あり花の山」ではないだろうか。そこには近江商人の「三方良し」精神が生きる。売上の対前年比、シーズンMDなどを現実に照らし合わせて、白紙からブランド再建計画をたてることが求められている。大阪出身で船場の繊維問屋にさんざん鍛えられた著者である。小泉産業グループが今回のブランド譲渡をステップとして、新しい飛躍を遂げること祈念する。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)