飲食店経営者は「2022年夏になっても需要は以前の3割減」を前提に大胆な決断をすべき

 リーマンショックのような過去の大不況の場合は、この農耕民族的思考で対処した経営者が一番被害が少なかったかもしれません。逆に不況のまっただなかで経営権を二束三文で手放すことになってあとで後悔した経営者も多かったはずです。

「新しい日常」と「デジタルトランスフォーメーション」

 ただ、この考え方が正しいのは、2022年の夏になれば景気が完全に元に戻るという前提が成立する場合です。ここがコロナのポイントで、アフターコロナについてはこれまでの不況と違い、この回復前提が崩れる可能性があるのです。

 キーワードをいえば「新しい日常」と「デジタルトランスフォーメーション」が重要です。わかりやすい例を出すと、今、リモートワークが大企業を中心に広まりつつあります。これは日本経済全体にとっておそらく不可逆的な業務プロセス進化で、コロナ禍がおさまった後も、かなりの仕事が「リモートでこなせばいい」という考え方に変わる可能性があります。そして業務は自宅で、会議もリモート参加でということになると、オフィス街の人口が激減することになるでしょう。

 その前提で未来を想定すると、オフィス街で開業する飲食店は2022年の夏が来ても元のようには顧客が戻ってこない可能性が高いということになります。ランチタイムにお店を埋めていたサラリーマンやOLの姿がまばらになり、夜にお酒で盛り上がっていたスーツ姿の集団がやってこなくなる。

 よく似たまったく違う変化に見舞われている業界があります。こちらは地球温暖化の影響でしょうか、これまでの漁場でサンマやイカが収穫できないという事態が起きています。なんらかの事情で魚群がこれまで回遊していたルートを離れ、別の場所に移ったのではないかといわれています。

 当然漁船の側は農耕民族的にこれまでと同じ漁場でひたすら魚群が戻ってくるのを待つのは得策ではありません。レーダーやソナーを駆使し、仲間の船からの情報を交換しながら、新しい漁場を探索する。これが狩猟民族的な経営思考です。しかし、たとえそのように場所を変えたとしても、かつての北海道のニシン漁のように結局魚は戻ってこないという未来さえありうる。漁船の経営者としては恒久的な変化を想定すべき状況なのかもしれません。

 それと同じ理屈で、飲食店の経営でもコロナ禍が過ぎた後、以前と同様に顧客が戻ってくるかどうかを真剣に検討する必要があります。アフターコロナの新しい日常で行動が変わるのはビジネス客だけではありません。住宅街の飲食店でのママ会や女子会といったように変わらなそうな需要ですら、新しい日常でその成立基盤が変わってしまう可能性は十分にあります。

狩猟民族的な発想と行動

 実はこれは飲食店に限らず、観光業、ホテル、小売店、製造業、サービス業すべての経営者にいえることなのですが、アフターコロナの新しい日常では、業界が過剰キャパシティになってしまっている業界が続出するはずなのです。

 今回は象徴として飲食業を挙げさせていただきましたが、新しい日常では消費者の行動スタイルが変化してしまうため、これまでと同じ規模の需要がなくなってしまう。そのような前提であるにもかかわらず、同業他社含めて少しだけの閉店や休業でじっと農耕民族的にコロナ禍の嵐が過ぎるのをひたすら待っている。こういった業界が多いのです。

「仮に2022年夏になっても需要が以前の3割減にとどまってしまったら、うちのお店はやっていけるのだろうか?」

 この質問を真剣に考えたうえで、その答えによってはいったん店や会社を閉じ、来るべき2022年夏には違う展開ができるように身軽になって準備する。そのような狩猟民族的な発想と行動が必要な企業やお店は、少なくないのかもしれないのです。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

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●鈴木貴博(すずき・たかひろ)
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『ぼくらの戦略思考研究部』(朝日新聞出版)、『戦略思考トレーニング 経済クイズ王』(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。