中国経済が人口要因などにより急減速すれば、環境規制の強化を待たずに世界の原油需要はピークアウトし、原油価格は長期にわたり低価格で推移することになるだろう。
20世紀の日本は、戦前の米英諸国によるABCD包囲網や戦後の2度にわたる石油危機など、原油という戦略物資に振り回されてきた感が強いが、世界の原油需要のピークアウトでこの問題から解放されるのだろうか。日本への原油供給の9割を占める中東産油国の今後の動向がその鍵を握っている。
世界の原油需要のピークアウトに備え、サウジアラビアをはじめ中東産油国は「脱石油経済」に向けた改革を始めているが、残念ながらその成果は芳しくない。今年9月に入り、中東地域ではイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンとの国交正常化が相次いでいるが、「パレスチナ問題どころではない。イスラエルの助けを借りてでも経済の苦境を乗り切りたい」という中東産油国側の思惑が透けて見える。
この動きは今後も続く可能性があるが、微妙なバランスの上に成り立ってきた中東地域全体が一気に流動化する懸念も高まることだろう。「ホルムズ海峡の封鎖」が日本のエネルギー安全保障にとって最悪のシナリオだったが、中東地域全体で地政学リスクが高まれば、日本は戦後最悪の石油危機に遭遇してしまうかもしれないのである。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)