新型コロナウイルスの感染拡大で外食産業が苦境に陥るなか、食事を宅配するフードデリバリー(出前)が脚光を浴びた。米配車大手ウーバー・テクノロジーズが運営するウーバーイーツは定額制の導入で攻勢をかけ、2番手の出前館はLINEの子会社になった。「ウーバーイーツに対し買収案を検討している」との報道がきっかけで、東京株式市場で出前館が人気化した。出前館が圧倒的な国内シェアを獲得し事業規模をさらに拡大するとの期待が先行した。
テレビ東京のワールドビジネスサテライトが8月18日深夜、ウェブサイトで報じ、出前館は「事実無根」と否定した。にもかかわらず、株価は急騰。9月1日、年初来高値の2809円をつけた。昨年末の1127円から2.5倍に大化けした。
ウーバーイーツは新型コロナウイルス感染が拡大した2月末から3月末までの1カ月間で、国内の契約店が約2割増え、現在は3万店を突破した。配達地域も27都道府県と拡大が続く。配達料手数料についても月額980円の支払いで、1200円以上の注文をすれば手数料が常に0円になるサービス「Eatsパス」を導入した。
日本マクドナルドホールディングスはウーバーイーツに対応する店を900店にした。ローソンは19年8月、日本のコンビニで初めてウーバーイーツを導入。取扱店は1000店。総菜やデザートなど定番商品が対象で客単価は1300円程度だ。
ダウンタウンの浜田雅功を起用したCMを展開している出前館は、1年間で加盟店が1万店増加し、計3万店に達した。ウーバーイーツに迫る。新型コロナの影響に加え、出前館が推進する宅配専門店以外の飲食店の配達代行を行う「シェアリングデリバリー」を拡大したことにより、加盟店数の増加のスピードが加速した。飲食店が新たに出前を始めやすいように、20年4月から手数料の助成をスタートさせたことも寄与した。
出前館の19年9月~20年5月期の連結決算の売上高は前年同期比40.8%増の68億円と大幅に増えた。仲介サイト経由で注文を受け、店舗から手数料を受け取る事業が主力だが、宅配の代行業務を強化した。それでも拠点開設や人員増に伴う費用や広告宣伝費が膨らみ、営業損益は16億円の赤字(前年同期は2300万円の黒字)、最終損益も18億円の赤字(同600万円の赤字)となった。成長投資を優先するため、20年8月期(通期)の年間配当はゼロ(前期は3.6円)とする。無配となるのは06年8月期以来14年ぶり。20年8月期の連結業績予想は「未定」とした。
出前館は今年4月、LINEが300億円を投じて買収した。LINEは16年に出資し、20%の株式を持つ筆頭株主だった。今回の出資でLINEは約35%、ファンドが約25%を保有。グループで出前館の6割の株式を握ったことになり、実質的に子会社にした。LINEでデリバリー部門を担当していた藤井英雄執行役員が6月の臨時株主総会後に社長に就任。50人ものITエンジニアを送り込んだ。出前館の中村利江社長は会長に退いた。
LINEはフードデリバリー「LINEデリマ」を年内に出前館に統一。トップを走るウーバーイーツを追撃する体制を整える。
LINEはヤフーを傘下にもつZホールディングス(ZHD)と経営統合する。両社は8月3日、21年3月に経営統合の実現を目指すと発表した。ZHDの筆頭株主はソフトバンク。統合会社はソフトバンクの連結子会社となる。
ソフトバンクの親会社はソフトバンクグループ(SBG)である。SBGはウーバー・テクノロジーズの筆頭株主になっている。日本でタクシーの配車やフードサービスを提供する中国のディディにもSBGが出資している。
ここで奇妙な現象に行き当たる。デリバリーサービスを行う主力3社の最大の株主が、いずれもSBGなのだ。「出前館によるウーバーイーツの買収説」は火のないところに煙が立ったわけではない。LINEとZHDの統合後に、再び出前館とウーバーイーツの経営統合、もしくは出前館による買収が俎上に上ることになるとみられている。
(文=編集部)