売上高2位のH&Mに売上高で迫るファーストリテイリングはどうだろうか。20年度3~5月期、売上高は3,364億円(昨対比39.4%減)とH&Mとの売上と並ぶ。総利益は1,744億円(昨対比39%減)、営業損益は43億円の赤字と、単純にこの四半期だけの比較だとH&Mを上回っている。
主力事業のユニクロは国内で3月から5月の連休までの店舗休業が増え、売上高は34%減。5月は中国が既存店増収だったが、その他のアジア、欧米が大きく落ち込み海外売上高は45%減収。しかし国内ユニクロが黒字を維持し、海外は中国の速い回復にも助けられ営業損益は43億円の赤字にとどまった。
春夏在庫の処理についても他社同様にトレンド商品は値引き販売を強いられるが、得意とするベーシック商品は構築を進める適時供給体制により、生産調整によりコントロールする。在宅勤務の定着や景気の不透明感から、衣料品へのニーズが実用品にシフトし、ユニクロには追い風となった。
コロナ禍によって消費者が新しい生活様式を求めたことで、ユニクロの強さがより強く認識された一面もある。今年、新業態の3店舗を開業しながらも、ファストリの柳井正会長兼社長が「よりソーシャルな小売業」への脱皮意欲を宣言。具体的な新業態はまだ見えないがその挑戦は休むことなく続けられる。
コロナ禍によって、世界のアパレル業界は旅行関連業界に並ぶほどの打撃を受けた。米国の3~6月の小売売上高は前年同期比7%減であったが、アパレルは55%減であった。米国の名だたる名門企業の破綻が続いただけでなく、日本でも東証1部上場の名門レナウンも破綻に追い込まれた。今も残念ながら業界では次の企業破綻の噂が絶えない。
アパレル業界はそのビジネスモデルだけでなく、存在価値さえ問い直されている。アパレルの価格は戦後、物価安定の超優等生とされてきた。暑さ寒さを防ぐだけでなく、着替えるだけで手軽に「幸福感」や「高揚感」を得て、人々が「新しい自分」に出会える。そんなアパレルの素晴らしさを、まずは業界自身が再認識すべきである
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)