コロナ禍による緊急事態宣言に伴い、休業要請を受けたパチンコ業界は、休業解除後も客足が戻らず、経営難から休廃業や閉店が続く。マスメディアは休業要請に応じなかった一部パチンコホールをバッシングしたが、それによるイメージダウンも尾を引いて苦境は収まらない。
4月から5月にかけて都道府県の休業要請に応じたパチンコホールの休業率は、意外なほど高い。パチンコ・スロット情報サイト「でちゃう!PLUS」の調べでは、パチンコホールの休業率は最大で98.7%にも上った。そのなかで営業を続けたパチンコ店は、「補償のない休業要請に、休めば店が持たない、廃業しかない」との思いから、背に腹は代えられず止むなく営業を続けた、と関係者は言う。
4月の臨時休業からついに再開することなく、約10年間続けた営業を終えたパチンコ店がある。アリーナグループが経営する埼玉県さいたま市の「アリーナ丸ヶ崎店」。埼玉県遊技業協同組合理事長でもある趙顕洙社長によると、中小のパチンコ店の経営を今後も続けていくことへの苦労の重みと将来不安が、閉店を決断させたようだ。
趙社長の話では、アリーナグループが運営する10店舗は、休業を4月13日から5月25日まで約1カ月半行った。その間、収入が途絶えるため、社員に給与約10%カットをのんでもらい、地代や家賃もできる限り減免や繰り延べをしてもらった。1人1日当たり上限1万5000円の雇用調整助成金も申請した。
他方で、融資を受けようと金融機関を奔走したが、回答はことごとく「No」だったという。「すでに融資を受けていた資金の返済の繰り延べくらいしか応じてくれなかった」と内情を明かす。GW明けに営業再開に踏み切った中小のパチンコ店も、同様な事情があったのだろう、と同情する。
「日本政策金融公庫や商工中金などパチンコ店と取り引きのない金融機関への説明は大変だった」と趙社長は言う。審査の書類に必要だとして、なんと「営業許可証」の提出まで求められた。審査に途方もない時間がかかり、融資の実行が遅れた。結局、政策金融公庫からの融資は実現したが、商工中金の融資は8月17日時点でまだ実行されていない。
金融機関とのやり取りで気になったのは、「依存症対策」や「反社会性対策」。依存症問題については、本人や家族からの「なんとかしたい」との訴えがあれば、業界として用意した解決プログラムで対応する、と答えている。杓子定規に聞かれただけだが、世間一般からマイナスイメージを持たれ、こうした取り組みも世の中では認知されていない、としみじみ思ったと明かす。
マスメディアによる連日のバッシング報道に、自分たちの立場を伝えられずに押しまくられた無念の思いがある。「今後は、法にのっとって真っ当な営業をしているということを業界として堂々と発信しなければ」と語る。
閉店するアリーナ丸ケ崎店にやってきた常連客から、「閉めるんだって。残念だね」「もっと頑張ってほしかった」「10年間ありがとう」と惜しむ声が広がった。
自粛ムードが高まり、“自粛警察”のいやがらせが横行するなか、業界によれば、パチンコホールからのクラスターの発生は本稿執筆時点で確認されていない。
パチンコ業界専門誌「PiDEA」によると、ホール最大手の「マルハン」は、4月7日の緊急事態宣言を受け、休業要請を出さなかった高知県などを除き、全国316店中312店を休業した。「社会の公器としてやむなしと判断した」という。この間、月約200億円の営業損失が出た模様だ。
今回の行政の休業要請は、自粛要請の形をとった事実上の強制なのだから、休業補償しないのはおかしいのではないか。公益性の観点からの私権の強制的な制限を、明確な補償なしに「自粛要請」の形で行うべきでないだろう。
帝国データバンクの調べでは、今年上半期(1~6月)のパチンコホール業者の倒産件数は、昨年1年間の半分の12件に上る。しかし、休廃業や閉店の数は休業解除後、急増に転じた。コロナ禍の長期化で業界の苦境は一層深まる、と見られている。
(文=北沢 栄/ジャーナリスト)