『最強のAI活用術』では、「指数関数の本当の怖さ」と書いて、「垂直上昇」の特性とともに、リソースをあっという間に食い尽くすことのほうが重大な意味をもつとしています。
シンギュラリティ否定論者であるにもかかわらず、この本では、14回も「シンギュラリティ」という言葉を登場させちゃいました。肩に力はいってましたですね。反省!
少し長くなりましたので、次回はこの続きと、特に『人類の未来 AI、経済、民主主義』でインタビュアーの吉成真由美さんにカーツワイル氏が答えて、「2029年にありとあらゆる能力でAIが人間を上回る」としている夢想と、2045年のシンギュラリティとの違いを議論したいと思います。
2029年までは、あと8年半。9年前の「京」コンピュータから「富嶽」への進化なみのことが起きても、「ありとあらゆる能力でAIが人間を上回る」のはまだまだ無理じゃないか、と普通は考えるでしょう。少なくともそれまでは、生きていたいものです。前回記事『世界一達成のスパコン「富嶽」、すでに人類的課題の解決に活用…AIとDXで社会を幸福に』の最後に、「AIとDXによる幸福の増大を信じましょう」と書きました。確かに、信じるものは救われる、という側面はあります。でも、科学無視、論理と証拠を無視する勝手な信仰では、企業経営も、国家の運営もおぼつかないのではないでしょうか。
(文=野村直之/AI開発・研究者、メタデータ株式会社社長、東京大学大学院医学系研究科研究員)