そしてGAPの20世紀のままの化石のようなMD政策、魅力のない商品力に改善は見られない。
英国では1953年創業の生活雑貨ブランド、ローラ・アシュレイが3月に破綻。かわいい花柄で急成長したことで知られるキャス・キッドソンも英国内の全店舗を閉鎖し、2015年9月に設立された日本法人は65億円の負債で自己破産を申請した。世界的に洋服のカジュアル化がますますスピードを増して進んでいる。
英国の上流階級の服飾文化を原点とするメンズのスーツスタイルは、これまで世界中のビジネスマンの共通の服装であった。しかし国内でも団塊世代の引退、家庭の衣料出費の低下、政府主導のサマースタイル推奨等で、主要スーツ量販店の業績も縮小が続いている。世界中でもこの傾向は顕著であり、ビジネススーツを中心とするアパレル企業はこの解決策にさまざまな挑戦を続けている。
英国を代表するブランド、ハケット・ロンドンの動きをみてみよう。
1983年、英国ロンドン・チェルシーのキングスロードにジェレミー・ハケットが第1号店を創業したのがハケット・ロンドンの始まりだった。92年、アルフレッド・ダンヒル傘下で英国スタイルの象徴ブランドとして大きく飛躍した。90年代にはイングランドラグビーチームの公式スポンサーとなる。しかし、2005年にイギリスのジーンズ会社ペペジーンズに買収された。
13年、ハケット・ロンドンはサッカークラブ「チェルシーFC」のオフィシャルサプライヤーとなり、19年にラグビーチーム「ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ」の公式プレミアムウェアメーカーとなった。19年6月から21年7月までのツアー・南アフリカにおける3年間のパートナーシップを提携する。
現在、ハケット・ロンドンは世界で約185店舗を展開している。2008年4月に日本にもハケットジャパンが設立され、09年に丸の内にショップをオープン。16年3月には東急プラザ銀座にアジア最大の旗艦店をオープンさせている。伊勢丹メンズ館をはじめ国内有名百貨店や主要商業施設で展開されている。重衣料が中心であるハケット・ロンドンの日本撤退も取り沙汰されている。
過去、日本のアパレル市場は世界的にみて魅力的で有力な市場であった。しかし19年にアメリカンイーグルやフォーエバー21が撤退した。本国の事業主体がなくなれば、日本の事業主体は商品、資金ともに立ちいかなくなる。20年3月に破綻した米ディーン・アンド・デルーカのケースは、日本側出資者が破綻前に海外所有者の持ち株も買い取り、完全な日本企業として継続した特殊な成功例である。
16年から始まったアパレルのローカル回帰現象がはっきりと強まっている。過去にグローバル展開で成功した企業の破綻、撤退が続く。世界でアパレル産業の総需要は伸びると予想されてきたが、コロナ禍で混乱が続く。安価な実用衣料と付加価値が高いラグジョアリーの二極化、スポーツ要素のカジュアル化が進むのは間違いないであろう。消費者の価値観と社会ニーズが、アパレル産業を新しい構造に大きく変えてくれるであろう。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)