安価&高品質な家電が人気…アイリスオーヤマ、誰も真似できない“最強経営”

「アイリスオーヤマは1970年代のオイルショックで、在庫を抱えすぎてしまい倒産寸前にまで追い込まれた過去があります。基本的にメーカーは在庫をためてそれをさばいていくものですが、アイリスオーヤマはこのときの経験を生かし、なるべく在庫をため込まず、注文があったら必要な分だけ作るというスタイルに変えたのです。これは他業種ですが、ファストファッションブランドのZARAと通ずるところがありますね。

 こうした意識が発展して、各工場に自動倉庫管理システムまで導入し、いわば“物流センターに工場を作る”とでもいうべきスタイルの確立にまで至りました。これにより、物流コストを格段に下げ、在庫を少なくすることができるんです。

 一般的にメーカーはこうした物流より生産性を重視します。つまり、パーツまたは製品ごとに工場を設け、ひとつの工場では1パーツまたは1製品だけを大量に作り、それを物流センターで積み合わせて配送するというシステムですね。こうしたシステムの場合、生産コストは下がるものの当然物流コストは上がりますので、アイリスオーヤマはこうした通例に乗りませんでした。ひとつの工場でさまざまなパーツや製品を作り、一つのコンテナにさまざまなパーツや製品を詰め込むなどした物流優先のビジネス戦略で、フットワークを軽くすることに重きを置いたんです」(角井氏)

 同社の肝は、徹底した物流コストの管理と、そこから生み出されるフットワークの軽さにあるということか。

スピード感と柔軟性が生み出す多角化経営こそ、バイタリティの秘訣

 アイリスオーヤマのこうした視点こそ、数多くの商品を生み出してきたパワーの源だと角井氏は分析している。

「フットワークの軽さは物流面だけでなく、商品開発でも顕著です。運命共同体であるホームセンターは、園芸、日曜大工、家具、家電、食品と、基本的にあらゆるものが揃います。それに寄り添うアイリスオーヤマも、必然的にさまざまな商品を開発する思考になっていくわけです。よく、“異なるジャンルに手早く参入してくる”といった言説もありますが、そうしたイメージはここに根ざしていることからくる印象なのでしょうね。

 そして、そういったスピード感と柔軟性こそ、今後も同社の生命線となるでしょう。同社は毎週月曜日にプレゼン会議を行い、その場で新商品を即断し、それと同時に関係部署がすぐに動き出す“伴走方式”というスタイルを取っています。また、工場の稼働もあえて8割ほどに留め、緊急の需要に応えられる余力を保つなど、市場の動きにすぐ対応できるシステムも確立しています。

 実際、昨今の新型コロナウイルス流行を受けて、マスクの生産にいち早く乗り出したほか、体温の高い人を検知するサーモカメラといった、コロナ禍でのビジネスに必要な商品もすでに開発していますからね。ですから、こうしたスピード感と柔軟性も、同社が伸びてきた本質的な理由と言えるでしょう」(角井氏)

 同グループの会長・大山健太郎氏は近年、地域貢献で自社ブランドのお米の販売までしているようだ。こうしたアンテナの広さと、そのアンテナでキャッチした情報を迅速に活かすシステムの確立は、辛酸を舐め、その経験を糧にしてきた同社ゆえの強みなのかもしれない。

(文=A4studio)