新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、必要性が高まっているのが、オフィスに出勤せずに業務を行う「テレワーク」である。人と人との接触が少なくなることから感染拡大の抑制に効果があるとされており、政府や各自治体はテレワークに関連する補助金・助成金制度を続々と発表しているが、これに伴って様々な需要が発生することが予想される。
そもそもテレワークとは、情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語である。そして、テレワークは働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)・モバイルワーク・施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務等)の3つに分けられ、特に新型コロナウイルスの対策としては在宅勤務が推奨されており、国内の企業で取り組みが進んでいる。
そこで本稿では、テレワークの普及が国内経済に対してどの程度の影響を与えているかについて直近のデータを織り込んで試算してみた。
テレワークのマクロ的コストを試算するにあたって、発生するであろうと思われる直接的なコスト(需要)として3つの視点から分析してみた。具体的には、(1)初期費用、(2)システム利用料、(3)使用端末毎のソフト(アプリ)利用料、の以上3点である。
株式会社ワークスマイルラボが運営するサイト「ワクテレ」に基づけば、テレワークを行う際には「テレビ会議システム」か「Web会議システム」を導入するのが一般的とされている。そして、テレビ会議システムは場所が限られてしまうことや価格面から、現在はWeb会議システムのほうが主流になっている。
特にWeb会議システムは専用の端末やカメラ等を購入する必要がなく、保有するパソコンやスマートフォンで通信可能なため、比較的安価に導入できることが大きなメリットとされている。そして「ワクテレ」によれば、Web会議システムの一般費用は以下のようになっている。
・初期費用:10万円
・システム利用料(月額):1万円
・使用端末毎のソフト(アプリ)利用料(月額):1万円/台
(出所)ワクテレ
そして、例えば従業員10名で使用する場合、導入初年度で(1)初期費用10万円、(2)システム利用料1万円×12カ月=12万円、(3)端末利用料1万円×12カ月×10名=120万円、となり、合計142万円となるとしている。
このため、テレワーク導入のマクロ的な需要をはじき出すには、日本における法人企業の数と平均的な従業員数、テレワークの普及率が必要となってこよう。
まず、日本における法人企業の数と平均的な従業員数は財務省「法人企業統計季報」を用いた。直近2019年10-12月期調査によれば、資本金1000万円以上の法人企業母集団、人員はそれぞれ95万5041社、3732万8766人となっている。これに基づけば、法人企業の平均従業員は3732万8766/95万5041=39.1人となる。
一方、テレワークの普及率は、4月上旬時点で27.9%(パーソル総合研究所)である。したがって、仮に先に示したテレワークにかかる一般的費用に基づけば、すでにテレワーク導入済み企業の導入初年におけるマクロ的な需要は、初期費用10万円+(システム利用料1万円+端末利用料39.1万円)×12カ月×95万5041社×普及率27.9%≒1.3兆円と計算される。
なお、27.9%の普及率により正社員だけで約760万人がテレワークをしていると国勢調査に基づき簡易推計しているが、今回の試算に伴いテレワークをしている人数は非正社員も含めて約3733万人×27.3%=1041万人となるため、ある程度整合性が取れているといえよう。