中国、香港の自由剥奪で西側と全面対立…共産党幹部自ら資産逃避で国際金融センターを破壊

 第二は、景気刺激策を遂行するための無謀な財政措置である。まずは金利の低め誘導、中小企業への融資拡大など、主に企業支援の政策である。新しく債務となる財政支出は合計5.5兆元(邦貨換算で82兆5000億円)となる。これは、中国GDPの4.1%に相当する。

 リーマン・ショック以来、最大の財政支出となるが、ここに加えて地方政府の特別債の発行を認め、1兆元の枠をもうけた。

 第三に、李克強の基調演説から台湾「平和的統一」の文言が消えたことだ。台湾総統に再選された蔡英文は、就任式で「(中国の唱える)一国両制度には反対」と明確なメッセージを出しているが、中国は意外にも沈黙がちなのだ。ポンペオは蔡英文再任に祝電を送り、前途を称えた。

 中国はいかなる反応を示すか、注目された。台湾海峡へ中国海軍の艦船が出没し、領空接近は日常の風景だが、このところ空母打撃群を頻度激しく当該海域へ派遣して、背後にある米軍を牽制してきた。

「台湾統一」は「92年合意」の履行とセットだったが、「台湾独立のいかなる行動にも反対する」という文言だけが残った。ただし、「92年合意」を中国側はあったと言い張っているだけで、台湾はその合意の存在も認めていない。

 同時に進行している事態は、米国の対台湾武器供与である。ジェット戦闘機、戦車に加え、潜水艦建造技術と魚雷を供与する。高性能の魚雷MK48を18発。このMK48魚雷は、一発で駆逐艦を撃沈できる。輸出金額は1億8000万ドルとなる。

 米国はこれまで、台湾への武器供与に関してハイテク兵器を極力避けてきた。 理由は、台湾軍幹部が政権に反対する国民党の幹部でもあり、北京とつながる中華思想のメンタリティが強く、北京に軍事機密を漏洩しかねないからだった。

 一方、蔡英文は香港の民主派とその活動を支持し、できる限りの支援を惜しまないと表明した。「香港大乱」以後、香港から台湾へ移住した人々は昨年に5500名、今年は1月から3月までですでに2400名を超えている。この中には、弾圧された銅鑼湾書店の経営者も含まれている。

“香港から資産逃避”に透ける共産党幹部の本音

 ところで、自由が締め付けられ、国際金融センターのポジションを失うことになる香港で何が起きているか? 香港国家安全条例が話題となった前後から、中国共産党幹部ら富裕層の香港からの資産逃亡が本格化していた。

 これまでは香港の口座を利用しての送金、取引、企業買収などが目的だったが、およそ5000億ドルと見積もられる富裕層(ほとんどが中国共産党幹部)の香港預金は米国を避けて、シンガポール、ロンドン、スイスへ向かった。

 これは、国際金融センターの地位を自ら破壊する行為でもある。富裕層は全人代で打ち出された香港の治安維持強化という方向に賛同を示しつつも、本音では不安視し、大切な資産はもっと安全な場所へ移管しておこうという強迫観念に取り憑かれたのだ。

 マイナスになることはわかっていても、中国は強硬路線を捨てられない。国際的に四面楚歌でも対外活動を強硬路線で展開しなければ、習近平政権は国内で孤立するという矛盾を抱えているからだ。

(文=宮崎正弘/評論家、ジャーナリスト)