2020年は次世代通信規格「5G」の商用化元年である。携帯電話大手3社、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクによる5Gの商用化が3月末に始まり、高速大容量サービスの導入が本格化する。
5Gとは第5世代移動通信システムの略。2時間の映画を約3秒でダウンロードできるほどの超高速通信を低コスト・低消費電力で実現する。タイムラグがほとんどないため自動運転車やロボットの遠隔操作でも活用が期待されている。同時接続ができる台数も格段に増えることから、災害時につながりにくくなるといったトラブルも少なくなる。
移動通信システムは1980年代に出先で移動中に電話できる「1G」が登場して以来、10年ごとに進化してきた。メールやインターネットに対応したデジタル方式の「2G」、2Gの高速化を実現した「3G」、3Gをさらに高速にした「4G」。そして4Gの100倍の通信速度をもつ超高速通信が可能な5Gの時代がやってきた。
株式市場では5Gに関連する企業が注目の的だ。5G関連銘柄は「インフラを支える機器サービス」と「5Gを活用した新ビジネス」の2つに大きく分けられる。設備投資を伴ってまず前者が動き出し、その後に後者が普及する。
機器サービス分野の「本命」とみられているのはスマートフォンや携帯電話の基地局などに使われる通信用計測器の大手アンリツ。コロナ禍で株価が大暴落するなか、アンリツの4月30日の株価は年初来高値の2267円と昨年末比で4.5%高となっていた。数多くある5G関連企業のなかでアンリツが株式市場の高い評価を受けるのは、通信向け計測機器というニッチな市場ながら海外でも高いシェアを持っているからだ。
通信計測機器とは携帯端末などが規格にそって正常にデータをやり取りできるかを検査する装置。5Gのスマホの実用化にはアンリツの機器によるチェックが欠かせない。通信計測機の世界市場ではアンリツ、米キーサイト・テクノロジー(上場)と、独ローデ・シュワルツ(非上場)の3社が競い合っている。5G向けではローデ・シュワルツが開発で後れを取っており、アンリツとキーサイトが世界市場を分け合う。アンリツはグローバル企業なのである。
マルコーニが無線通信を世界で初めて成功させた1895(明治28)年、アンリツの祖、石杉社(後の共立電気)が創業。1900年、もう1つの母体、安中電機製作所が設立された。
05年、哨艦信濃丸に搭載された安中製三六式無線機の「敵艦見ゆ」で、日本海海戦の戦端が開かれた。 31年、安中電機製作所と共立電気が合併して、安立電気と改称。両社の社名から安中のアンと共立のリツの一文字ずつを選び、語呂の良い安立を社名にした。その後、85年にアンリツに商号を変更した。
安立は太平洋戦争後すぐに経営危機に陥り、経営再建の過程で戦前から取引があった日本電気(NEC)などから出資を受け入れた。61年東証2部の発足時に上場。68年に東証1部に昇格した。NECは63年時点で30%強を保有する筆頭株主となった。
しかし、関係が徐々に薄れてきたため、NECは保有株を売り出してきた。2011年にはNECの業績が悪化したためアンリツ株を売却、100億円の売却益を得た。この時点でNECの出資比率は22%から6.9%に低下し、アンリツは持ち分法適用関連会社から外れた。12年には残り株式を売却し、完全に縁が切れた。アンリツは独立系の計測機器メーカーとして活路を切り開いてきた。
アンリツの20年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益は前の期比7%増の1070億円、営業利益は55%増の174億円、純利益が49%増の134億円。利益率の高い5G計測機器の販売が好調だった。売上収益の4割を占めるアジアで、5Gの商用化でスマホ向けの計測機器が伸びた。