では具体的に、どんなYouTuber事務所が新しいビジネスモデルを生み出そうとしているのだろうか。
「一例として『Guild(ギルド)』という事務所は、広告料ではなく企業からのタイアップ広告費を収益源とし、撮影費等をそちらから出すという形を取っています。マネジメント料も、案件ごとに価格を定めたクリアな体制になっており、YouTuberとしては出費が固定で企業がタイアップ案件を取ってきてくれるので、基本的にはプラスになるのです。
一方で『Zeppy(ゼッピー)』という事務所は、投資分野に特化しているため、ターゲティングの精度が高くなっています。また、購買力のあるユーザーに対して高額な商品の広告を掲載できるため、広告再生単価がアップ。そのためZeppyのビジネスモデルは、企業にとってはターゲットが明確なのでタイアップや広告の掲載がしやすく、事務所やYouTuberにとっても広告の再生単価が高いため、収益につながりやすい形態だといえるでしょう」(同)
また、YouTuberの他メディアへの進出も、再生回数に左右されない生存戦略の一環なのだと高橋氏は語る。
「YouTuberの方々にお話を伺ったり、公開されている情報から調べたりしたのですが、多くのYouTuberは広告収入だけだと、大した収益を挙げることはできません。会場のレンタルや撮影機具の調達、人件費など、撮影に関わる費用もかなりかかるので、YouTube以外のSNSやテレビなど、多メディアにまたがって活躍することで収益の底上げを図るという考え方になったようです。
逆にテレビや雑誌などのメディアにとっても、若いユーザーを呼び込むためにインターネットやインフルエンサーの力を活用したいという思惑があります。例えば『VAZ(バズ)』に所属しているねおさんは、YouTubeやTikTokでインフルエンサーとなっていたため、女性ファッション誌『Popteen』にスカウトされて読者モデルになりました。
このように、広告収入だけに頼れないYouTuberと、縮小しつつあるメディアの考えは、ちょうど合致しています。それが理由で、YouTuberが他メディアで台頭する機会が増えてきているのではないでしょうか」(同)
YouTuberや彼らの所属事務所が新たなビジネスモデルを創出し、すでにテレビなどで活躍している俳優・タレントがYouTubeに進出するなど、状況が変わってきている国内のYouTuber市場。最後に、その展望を高橋氏に占ってもらった。
「今のYouTubeは、検索市場の最大手であるGoogleのサービスであり、1兆6000億円以上の広告収益を挙げているので、よりサービスとして盤石になっています。つまりYouTubeには、今後もうまく利用していく価値がありますし、ビジネスの手段としてYouTuberに参入する方は増加していくことでしょう。
また、新型コロナウイルスの流行に伴う休校やテレワークの影響で、YouTubeの視聴時間は非常に伸びています。テレビなどと違い、情勢に応じた新規コンテンツが出しやすいこともあって、現在のYouTubeはチャンスの場だといえるのです。これからは今までにない、新しい種類のコンテンツが生まれてくるかもしれないですね。一方で、この騒動で広告主が減少しているため、YouTuberの広告収入は減少傾向にあり、広告収入だけに頼る危うさが証明された形となっています」(同)
かねてからの再生回数に依存しないビジネスモデルの模索、そして視聴時間の増加によって、まさに激動の渦にあるYouTube。世界のあり方すら変わりつつある昨今、そこから新たなビジネスやエンタメの可能性が開花することに期待したい。
(文=佐久間翔大/A4studio)