コロナ自粛延長で「自転車」通勤増加→事故増加の懸念…東京、すでに自転車保険加入が義務化

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「Getty Images」より

 4月1日から、東京都では自転車保険の加入を義務付ける条例が施行された。この条例に罰則規定はないが、行政が住民に自転車保険への加入を義務づける動きは、近年になって加速している。こうした分野に行政が介入するのは、自転車の安全対策を強化しているとアピールする狙いがある。

 昨今、自動車事故は件数・死者数ともに減少傾向にある。シートベルトの着用やスピード制限遵守などドライバーの安全意識が向上したことや、自動車メーカーもエアバッグの標準装備化を進め、アクセルとブレーキの踏み間違いによる急発進を防止する装置など安全装置を充実させていることが要因である。

 一方、自転車事故は横ばいで改善傾向が見られない。ある自治体の交通対策を担当する職員はいう。

「自転車は軽車両ですが、これまでの道路行政では曖昧な扱いのままにされていました。そのため、本来なら車道を走らなければならないのに、自動車のドライバーからは『危ないから、歩道を走れ』と邪険にされ、歩行者からも『車道を走れ』と煙たがられてきました。そうした中途半端な存在であるがゆえに、安全対策も講じられてこなかったのです」

 これまで、地方自治体では交通安全講習などで自転車のルールやマナーなどを教えてきたが、ほとんど形式的な話に終始していた。また、自治体が取り組む自転車政策は、放置自転車問題が多くを占め、交通安全は後回しになっているケースが目立つ。

 しかし、今般は自転車事故によって加害者が1億円に迫る高額賠償を請求されるケースも見られる。そうした背景から、2015年に兵庫県が自転車保険の加入を義務化する条例を制定。兵庫県を皮切りに、神奈川県・埼玉県などが追随した。そして、東京都も自転車保険の加入を義務づける条例を制定。4月から施行されるが、罰則規定はないため、「意識啓発に一定の効果があるぐらいで、実際に事故防止につながるのかは未知数」(前出・自治体職員)という疑問の声もある。

自転車シェアリング普及

 自転車事故による高額賠償もさることながら、近年では自転車シェアリングが普及したことも歩行者や自動車との間で問題が起きている原因にもなっている。ポートと呼ばれる自転車を貸し出し場所が都心部などに多く設置されているが、東京・大阪の都心部は歩行者も多く、そんな雑踏を自転車で走れば事故が起こるのは不思議な話ではない。特に、近年はスマホを操作しながら自転車に乗っている利用者は少なくない。自動車に比べると自転車はスピードが出ないから気を許してしまうのだろうが、スマホを操作しながら自転車を運転する行為は、かなり危険なのだ。

 ブームの後押しもあって、自転車シェアリングには多くの事業者が参入。拡大を続けている。自治体も環境問題や渋滞解消の切り札になるこを期待して、2~3年前までは自転車シェアリングを奨励していた。しかし、歩車分離といった道路インフラの改良は遅れ、歩行者・自転車の混在は依然として残ったままになっている。そのため、自転車・歩行者の事故はいっこうに減少する気配を見せない。

 また、近年はUber Eatsの配達員による自転車宅配も増え、配達員の自転車マナーなども問題視されるようになっている。配達員の給料は出来高制なので、配達員はできるだけ早く出前を届けようとするため、歩行者や自動車との事故が発生するという指摘もある。

 現在、新型コロナウイルスが猛威を振るい、満員電車を忌避する動きも強まっており、リモートワークができずにオフィスに出勤しなければならない会社員のなかには自転車で通勤する人が増えると予測されている。電車通勤の1割が自転車通勤へとシフトすれば、当然ながら朝夕の道路は自転車で混雑するだろう。自動車と自転車、自転車と歩行者の事故が増加することは避けられない。

 自転車保険が義務化されることで、被害者への補償は手厚くなる。しかし、自転車保険の加入が義務づけられても、事故が減るわけではない。抜本的な解決にはならないのだ。行政は歩車分離の道路における安全対策を急いでいるが、抜本的な解決策とはいいがたい。結局のところ、安全運転を意識することとマナーやルールの徹底遵守という、自転車ユーザーの良心に頼ることしかできないのが現状だ。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)