「ゆるボケ」と「ゆるツッコミ」といったらいいのかな。さじ加減の妙だ。もちろん演出や台本はあるにしろ、冒頭や調理中、実食でのトークの掛け合いは主に国分さんが牽引しており、落語的な型がないと成しえない絶妙な合いの手と、好奇心に由来するのであろう得体のしれない愛嬌には、エンタメの神髄を感じてしまう。
そしてそして、『男子ごはん』のエンタメ性を高めるスパイス的なものとして一番強調したい部分が、カットのつなぎなどに挟み込まれる「BGM」だ。これは番組ファンの人たちがこぞって指摘しているので、わたしが見つけたわけではないけれど、ただね、あなどれないんですよ、選曲が。
メインの使用曲は同番組のウィキペディアにも載っているように、ジョージ・ハリスンの「セット・オン・ユー(Got My Mind Set on You)」と、ダニエル・ブーン「Beautiful Sunday」。
それ以外で卵料理の回に使われたのは、ケツメイシ「さくら」、Perfume「Spring of Life」、beastie boys「egg man」、プリンス「Just as Long as We’re Together」、マドンナ「Express Yourself」……まだまだいろいろとあるけれど、メイン含めてこの回だけで10曲以上。ちゃんと卵だ、春だ、恋だと、企画に沿って選ばれているのがわかる。
気になる楽曲があれば、音楽認識アプリ「Shazam」を立ち上げて、テレビにスマホをかざして楽曲を検索してみよう。このレシピだからこの曲なのか! と、共通点が見つかってのけぞるかもしれないし、そうならないかもしれないが……。料理と音楽の共通性はいくらでも深読みできるので、あとは各々探求していただきたいところだ。
余談だけれど、わたしは『男子ごはん』で忘れられない回がある。電気グルーヴのピエール瀧氏が逮捕された某年某日を知っている人は多いと思うが、あの翌週くらいだったか、番組のBGMに電グルの代表曲「Shangri-La」が使用されたのだ。ちょっと驚いた。BGMは番組スタッフの誰かが丁寧に集め、編集の段階で配されるはずだから、たまたま流れたのではないだろう。あのタイミングの「Shangri-La」には、さりげないメッセージが込められていたんじゃないかなぁと、今でも思う。
『男子ごはん』は、栗原さんと国分さんのキャラクター、彼らのほのぼのトーク、バラエティ豊かな実用性高いレシピで人気だ。まさにエンタメ! 番組の骨組みには、一番先に後回しにされ、安価に、適当に、雑に扱われがちな音回りのことを死ぬほど大事にしている、潜在的文化レベルの高いスタッフがいるのを、この機会に知ってもらえますように。
(文=森下くるみ)
森下くるみ(もりした・くるみ)
1980年、秋田県生まれ。文筆家。著作に『すべては「裸になる」から始まって』(講談社、2008年)、『らふ』(青志社、2010年)、『36 書く女×撮る男』(ポンプラボ、2016年)など。<Twitter@morikuru_info>