ここまでやる必要があるのか。大学名の是非をめぐり、市の広報紙を用いて持論をアピールする京都市に、「やりすぎではないか」と批判が集まっている。
問題となっているのは、3月末に発行された広報紙『きょうと市民新聞』4月号の1面。ここでは「すみません、京都芸大に行きたいんですけど」と尋ねる人物に答えた女性が、市の運営する「京都市立芸術大学」の魅力をアピールする内容になっている。
広報紙のトップページを使ってアピールするほど、京都市が市立芸術大学に力を入れているのかといえば、そうではない。背景にあるのは、昨年から湧き起こっている大学名をめぐる騒動だ。
発端となったのは、昨年8月に私立の京都造形芸術大学が2020年4月から大学名を「京都芸術大学」にすると発表したことだ。大学名改名の告知では、次のように記されている。
「学校法人瓜生山学園『京都造形芸術大学』は、2020年4月1日より、学校法人瓜生山学園『京都芸術大学』に名称を変更いたします。
※その略称としては、『瓜芸(うりげい)』『KUA(ケーユーエー)』を使用し、『京芸』『京都芸大』は使用いたしません。
※なお、申し上げるまでもなく、本学は、公立大学法人『京都市立芸術大学』とは異なる大学です」(https://www.kyoto-art.ac.jp/news/info/467)
これに待ったをかけたのが、京都市と市立芸術大学だ。発表の翌日には早くも法的措置も含めた対応を取るとして、怒りのこもったコメントを発表。
造形大学側も、すでに市立芸術大学があるので紛らわしさは否めないと考えていたことは確かだが、抗議に対しては頑として譲らなかった。結局、争いの場は法廷へと移り、昨年10月から訴訟が始まっている。
訴訟中にもかかわらず、造形大学側は名称変更を強行。4月からは「京都芸術大学」となった。京都市の広報紙の記事は、これに対する批判を込めたもというわけだ。
市民に向けた広報紙で、ここまで必死に主張をする自治体も珍しいが、事情を知る人々を驚かせたのは、同時に掲載された広告だ。京都市営地下鉄などに掲示された『きょうと市民新聞』の広告では、こう記している。
「京都芸大ですか?西京区の沓掛にありますよ、京都芸大は……」
少ない文字数で、紙面よりも強烈に旧造形大学は“ニセモノ”とでも言いたげな主張をしているのである。
「京都市は学生の街でしょう。いくら大学の名称をめぐって対立しているとはいえ、旧造形大に合格して京都に引っ越してきた学生を攻撃しているようにしか見えない広告です。あり得ませんよ」(旧造形大の教員)
一方の市立芸術大学の教員からも、「あまりにセンスが欠けている」との声が漏れる。
双方の関係者とも、訴訟中の案件のため言葉を選ぶが、京都市の対応は“やり過ぎ”との感想で共通しているようだ。
こんな過激な攻撃が許容された理由としては、京都市の門川大作市長の意向という噂が流れている。門川市長には広告で大顰蹙を買った“前科”がある。
今年1月の市長選の際に、門川市長の選挙母体である「未来の京都をつくる会」が京都新聞に広告を出稿したときの出来事。この広告は「大切な京都に共産党の市長は『NO』」という攻撃的なキャッチコピーと共に、京都商工会議所会頭の京都商工会議所会頭氏や、映画監督の中島貞夫氏らの顔写真が掲載されていた。当初はキャッチコピーだけが問題視されたが、それ以上に問題だったのは、顔写真を掲載された推薦人が誰一人として広告の文言はおろか広告掲載すら知らなかったということである。
そんな無茶をやっても、なお現職の強さを生かして4期目の座を掴んだ門川市長だから、今回の広告も深く考えることなくやらしているのではないかというのが、市民の大方の見方だ。
これまでも、「景観計画」を根拠に京都大学の立て看板弾圧を導いたりと、批判の多い門川市政。いつかは自身が裸の王様だと気づく日が来るのだろうか。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)