92年、実質創業者である正一の長男、正司が会長になると、正一の三男の俊幸が跡を継いで社長の椅子に座った。俊幸が今治造船を業界トップに押し上げる礎を築き、中興の祖と呼ばれている。俊幸の現在の肩書はグループ社主である。2005年、俊幸の後任の社長の栄治(正一の五男)が亡くなり、幸人が43歳の若さで社長になった。幸人は俊幸の長男。慶應大学卒業後、三井物産に入社し、船舶部で2年間の修業を経て今治造船に入った。
今治造船は非上場のため財務情報は開示していない。唯一、知ることができるのは官報に掲載される決算公告のみだ。
2019年3月期決算(単体)の売上高は前期比9%増の3910億円、純利益は同95%増の116億円。黒字経営を続け利益剰余金は3692億円ある。これに対してJMUは大型LNG運搬船の建造で巨額の工事損失引当金を計上、18年3月期は698億円の最終赤字に陥った。19年3月期決算(単体)の売上高は前期比11%減の2541億円、純利益は12億円の黒字に転換したものの、利益剰余金は377億円の赤字だ。
さらに、JMUの20年3月期は純損益が360億円の赤字の見込みだ。JMUの業績悪化を受けて、出資企業は20年3月期の連結決算で、JMU株の評価損を計上する。46%出資するJFEは165億円の投資損失を計上。同じく46%出資のIHIは92億円、8%出資の日立造船は26億円の評価損を計上。すでに発表している65億円と合わせて特別損失は91億円になる。日立造船の例から見てIHIは追加で減損処理をする可能性大だ。
今治造船とJMUの財務内容には雲泥の差がある。今回の提携は今治造船によるJMUの事実上の救済である。
JMUの出資企業であるIHIは脱造船を進め、航空機エンジンに経営の軸足を移している。JMUの株式を売却して、造船から完全に手を引くのではないかという観測が流れる。国内の造船業界は川崎重工業と三井造船(現三井E&Sホールディングス)の経営統合が破談になって以来、無風状態が続いたため、世界規模の競争から、完全に取り残されてしまった。今回の国内1位と2位の連合で、「造船の再編が始まる」とみる関係者は多い。重工系の代表格である三菱重工業をはじめ大手は造船事業の縮小を進めている。
造船専業は、今治造船、大島造船所(長崎県西海市)、常石造船(広島県福山市)など。いずれも独立系だ。造船専業の瀬戸内の企業も危機感を募らせており、1、2位連合に加わることになるかもしれない。そうなれば、文字通り、“オールジャパン”の造船会社が誕生する。
(文=編集部)