東京五輪は1年程度延期されることになった。ここでもっとも気になるのが、延期によってどの程度の経済的な影響がでるのかということだろう。なかでも、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と開催都市である東京都から業務の委託を受けていた電通へのダメージは小さくないだろう。そして、電通の仕切りで各種イベントを実施していた企業にもその損害は伝播することが予想される。
五輪のスポンサーは、最上位ランクである「ワールドワイドオリンピックパートナー」から「ゴールドパートナー」「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」とランク付けされている。参加企業はトヨタ自動車、パナソニック、米ゼネラル・エレクトリック(GE)など国内外の約80社で、スポンサー契約料は計3500億円に上る。スポンサー各社は契約料を支払う見返りとして、関連商品やキャンペーンなどを展開できる。だが今回の乱気流のような展開に、生産現場とスポンサー各社はついていけていない状況のようだ。
「関連商品だけでなく、販促グッズや各種配布物などの発注、配布・販売計画ははるか前に始まっています。関連グッズの『2020』のロゴはそのままでやるしかありませんが、それらの商品や、生産に必要な金型などを当面、保管し続ける必要があります。そんなスペースは会社にはないので、発注先の下請けに丸投げです。下請けは『こんなの置いたままじゃ、他の仕事が受けられない!』と怒っているようですが、うちも新型コロナウイルスの影響で利益が激減しているので保管料が確保できません。飲んでもらうしかありません」(スポンサーの大手メーカーから発注を受けたイベント会社社員)
「電通さんにも策があるように見えません。マーケティング計画はもうボロボロですよ」(トヨタ関係者)
各スポンサーのとりまとめを行っていたのが電通だ。電通は本業のスポンサーのとりまとめに関する業務のほか、各種関連事業の計画立案、運営も担っていた。
例えば、東京都オリンピック・パラリンピック準備局の「東京都聖火リレー実行委員会」が発注し、電通が落札した「東京2020大会聖火リレーの実施運営計画策定及び聖火リレーランナー募集業務委託」3億3981万7225円と「東京2020オリンピック聖火リレーテストイベント実施運営業務委託」7447万8327円の2つの事業だ。聖火リレーはもはや事業として、ぐずぐずの状況になりつつある。
聖火リレーに関し、競合社の博報堂や東急エージェンシーなどはいずれも入札を「辞退」した。事実上、電通の独壇場だったわけだが、損害も電通が一挙に引き受けることになる。電通と東京オリンピックの関係に詳しい作家の本間龍氏は次のように現状を説明する。
「1年延期で最も被害を受けるのは、電通やスポンサーから発注を受けていたイベント会社とその下請けのサプライヤーでしょうね。東京五輪の仕事を受注するということは、今年の夏までの期間、五輪関連業務に拘束されることを意味します。人員の手配から各種グッズの生産ラインの確保まで押さえられていたわけです。日本全国のイベント関連の企業が総出でやることになっていた事業がすべて吹っ飛びました。電通などが、代わりの仕事を工面してくれるわけでもありません。非常に厳しい局面だと思います。
電通本体も当然、無傷ではありません。例えば全国各地で開催される予定だった聖火リレー関連イベントは電通による仕切りでした。この事業は約50億円といわれています。少なくともこの分が、電通の総合的な売り上げからなくなります。当然、各地方のイベント会社もその損害をもろに被ります。