象印マホービン、中国系ファンドの標的に…容赦ない株主提案突きつけ、家族経営を問題視

「象印マホービン HP」より

 象印マホービンは2月19日、大阪市内で定時株主総会を開き、中国の生活家電大手ギャランツ創業家の投資ファンドが提案した社外取締役選任議案を否決した。同月20日に開示された臨時報告書によると、投資ファンドが日本銀行出身で弁護士の長野聡氏を社外取締役に選任するよう求めた株主提案の賛成比率は23.04%にとどまった。一方、サントリーホールディングスの鳥井信吾副会長を社外取締役に選任する会社提案の人事案は99.36%の賛成率で可決。創業家出身の市川典男社長の賛成率は97.63%だった。

 ギャランツは創業家が代表を務める投資ファンド(CLEAR STREAM BANKING SA)を通じ、象印株を13.54%保有。市川典男社長の保有比率(12.40%)を上回る筆頭株主に躍り出た。ギャランツは、象印は業績低迷が続き海外展開も出遅れており、「家族経営色が強くガバナンスが機能していない」との見方を示していた。

 投資ファンドの提案には他の株主から1割程度の賛成があった。ファンドは会社提案の役員選任案に賛成しており、市川社長以下全取締役が100%近い賛成を得て再任された。ギャランツは象印の経営陣と全面対決するわけではないことを投票行動で示した。

 株主総会後、報道各社の囲み取材に応じたギャランツの梁恵強副会長は「提案が可決されなかったことは残念だが、超長期的な株主として会社の将来性には期待している。象印には、経営資源を新たな技術の研究開発に投入することを強く望む」と語った。

 ギャランツ創業家による株主提案が否決されたことで、2月20日の東京市場で象印の株価は1892円と1週間で11%下落した。大株主の提案で経営体制が変わり、早期の業績改善につながるとの見方が市場の一部にあったが、この期待はしぼんだ。その後は新型コロナウイルスの懸念で、世界的に株価が急落。象印株も2月28日に1670円で取引を終えた。昨年来高値の2518円(1月9日)から34%安い水準である。

歴代社長は創業一族から出る家族経営

 象印マホービンは家族経営の色彩を残している会社の1つだ。1918(大正7)年、市川銀三郎・金三郎兄弟が大阪市で市川兄弟商会を創業した。魔法瓶のマークとしてゾウを採用し、のちに現在の社名に変更した。代々、創業家一家が社長を務める。現在の市川典男社長は4代目。甲南大学経済学部卒。父は2代目社長の市川重幸氏。2001年、叔父である3代目社長の市川博邦氏から後継指名を受け、42歳の若さで社長に就任した。

 4代目社長は事業の選択と集中を進めた。「本業回帰」を打ち出し経営改革に着手した。柱に掲げたのは、輸入品との競合や市場縮小で不振に陥っていた魔法瓶事業の立て直しだった。就任から2年後の03年3月、大胆なリストラによるコスト削減に踏み切った。生産・物流を分社化し、本社は開発や販売に機能を集中。同時にステンレス魔法瓶の生産をすべてタイに移した。300人のグループ従業員が転籍か退職するという、極めて重い決断で、社内は大騒ぎになった。

 手軽に持ち歩ける小さなステンレスボトルの魔法瓶を開発。子供たちは水筒を学校に持参していたが、大人にも好きな飲み物を持ち歩いてもらいたいとの思いからスタートした。こうしてステンレスボトルは魔法瓶の主力商品となった。

 現在は、ステンレスボトルと炊飯器が営業の2本柱である。炊飯器の主流になっている、炊き上がりにムラのないIH炊飯器で、国内でトップシェアを誇る。

 2018年、創業100周年を迎えた象印マホービンは東証1部に上場した。父親の重幸氏が社長時代1986年に大証2部に上場。悲願としてきた東証1部上場を、32年目に息子の典男氏が実現した。