新型コロナウイルス感染の拡大が収束する気配がみえないなか、経済面で現れている影響を列挙してみる。
免税店大手のラオックスは業績への影響を考え、グループ全体の8%に当たる160人の希望退職を募集する。中国人訪日客による“爆買い”が一段落したことで、売上の3割を占めるインバウンド向け事業が苦戦しているため販売体制を見直す。2019年12月期の連結損益は78億円の赤字(前の期は10億円の赤字)と2期連続の最終赤字だった。20年12月期の業績見通しは「未定」とした。
ラオックスの利用者は中国政府が禁止した団体旅行客が多いのが特徴だ。「経営環境が急変し、合理的に次期の見通しを算定できない」というのが業績「未定」の理由だ。
外出やイベントの自粛で名目国内総生産(GDP)は3兆円近く下押しされるという試算がある。この数字は東日本大震災後の影響を上回る。外出自粛、消費にブレーキ。2月1日~17日の新幹線の利用者は前年同期比で10%減。同期間の東京駅での切符の運賃収入(交通系ICカードでの改札利用を含む)は前年同期比7%減だった。東京ディズニーリゾート(TDR)がある舞浜駅(千葉県浦安市)でも9%減った。
HISの澤田秀雄会長兼社長の長男、澤田秀太氏が社長を務めるクルーズ旅行専門旅行会社、ベストワンドットコム(東証マザーズ上場)が新型肺炎で苦境に陥っている。同社の株価は3月4日に2315円まで下落した。19年末の株価は5000円だったから54%安だ。神戸のクルーズ船会社が倒産したことが影響している。ダイヤモンド・プリンセスの問題で下げ、クルーズ船会社の経営破綻が追い打ちをかけた。
ベストワンはクルーズ旅行に特化しており、オンラインで予約するサイト「ベストワンクルーズ」を運営している。新型肺炎の拡大で、世界のクルーズ船の運航に支障が出れば、ベストワンにとって強い逆風になることから、それを懸念した売りが止まらない。
一方、HISは3月2日、20年10月期通期の純損益が11億円の赤字になると下方修正した。昨年12月時点では110億円の黒字を見込んでいたから、利益が121億円下振れすることになる。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で主力の日本人の海外旅行が大きく減ることが主な理由。売上高の予想は9000億円から7750億円に1250億円下方修正した。営業利益は193億円から17億円に急降下する。2月から海外旅行のキャンセルが目立ち、大型連休など今後の予約も低調で、グループで運営するホテルも予約が急減している。
HISは「新型コロナウイルスの影響は7月まで続く」と予測して業績を下方修正した。02~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)より「影響は大きい」とみている。感染の拡大がさらに長引けば、もう一段の業績の下方修正があるかもしれない。
新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が、国際商品市況を攪乱している。中国のエネルギー企業が「港湾の荷役作業員を確保できない」という理由で液化天然ガス(LNG)の引き取りを拒否した。売り手側はこのエネルギー企業の言い分を認めていないため、市場に混乱が広がっている。中国のLNGの輸入量は日本に次いで世界第2位。中国のLNG需要の4割は産業用である。企業活動が全面的にストップしたため、ボイラー燃料などに使うLNGの消費が急減。余剰感が強まりLNGのアジアのスポット価格は年初から4割以上、下落した。LNG価格が下がれば、LNGの最大の消費国、日本、特に電力・ガス業界にはメリットがある。電気料金、ガス料金が安くなってもいいのではないのか。