元国税局職員、さんきゅう倉田です。上司に言われたくないセリフは「青色申告より青いな」です。
売上が5000万円を超えるか否か。それは個人事業者や経営者にとって、とても重要な問題です。5000万円を超えれば消費税が簡易課税でなくなってしまい、確定申告のコストが増大しますし、一般課税になることで納める消費税が増えるかもしれません。
売上が4800万円くらいでも、税務調査で売上の計上漏れや売上除外が見つかれば、簡易課税でなくなってしまうこともあります。
むかし、卸売業を営んでいるAという男性がいました。Aは税務調査で売上の一部の計上が漏れていると指摘され、修正申告に応じることにしました。しかし、なんとか追徴課税を圧縮しようと考えました。
A「上席、実は漏れていたのは売上だけじゃないんですよ。仕入れも漏れていたんです。だから、修正申告はしますが、仕入れのほうも計上させてください」
上席国税調査官「証拠資料はありますか?」
A「現金で仕入れたんで、なんにもないんですよ」
上「では、いくら漏れているかもわからないじゃないですか」
A「確定申告書と一緒に、収支内訳書を提出するでしょう。その収支内訳書を書くときに、売上と仕入の計算を頭の中でやったんです。そのときに、売上が多すぎるなと思って、少し減らしました。それは認めます。でも、それだと利益率がおかしくなる。税務署にも目をつけられてしまう。同業他社に比べて利益率がおかしいと、不正を疑って調査に行くんでしょう? だから、仕入も減らしたんですよ」
上「領収証も請求書も保存がないような取引を認めることはできませんよ」
A「違うんですよ。保存していなかったわけじゃなく、最初からないんです。実は、倒産品や横流し品、いわゆる『バッタもの』は、書類のやり取りをせず、現金決済なんです。正直、どこから仕入れてきたのか、怪しいものもあるんで、相手が名前や住所を書くことを嫌がるんです。それでも、商品は安いから仕入れてしまう。こういうわけなんです」
言っていることは、もっとものような気もしますが、証拠もないのに「はい、いいですよ」と認められることはありません。具体的に、取引をした相手の連絡先を提示したり、日付を示したりすることもなく、ただ「取引はあった」と主張するのみでは、調査担当者からの印象が悪くなるだけです。
取引記録を保存することは容易です。請求書や領収書を、紙あるいはデータで残しておくだけです。そこから集計表や帳簿を作成するのは大変かもしれませんが、原始記録は誰にでも作成できます。
証票書類を取得して保存し、帳簿に計上することが極めて容易であることからすれば、仕入がほかにもある、税務調査で把握されたに以外に経費が存在する、と主張する場合には、Aはその存在と金額を具体的に立証する必要があります。
結果、Aの現金仕入がある旨の主張は認められず、調査によって見つかった売上は、売上除外として重加算税を賦課されました。
Aが、適当に減額した売上で収支内訳書を作成し、過少な所得で確定申告をしたことは、本人も認めているところです。売上の記録は振込だったため、通帳には残っていました。さらに、売上に関する資料を滅失していました。Aは、通帳には記録が残っているし、資料は意図的に破棄したものではないから、不正ではないと言い続けましたが、それが仮装隠蔽の事実を覆すことにはなりません。
売上除外による所得税、基準期間の売上が5000万円を超えたことで簡易課税を適用できなくなり、再計算した結果の消費税、重加算税と延滞税を納めることになりました。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)
●さんきゅう倉田
大学卒業後、国税専門官試験を受けて合格し国税庁職員として東京国税局に入庁。法人税の調査などを行った。退職後、NSC東京校に入学し、現在お笑い芸人として活躍中。2017年12月14日、処女作『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』(総合法令出版)が発売された。
「ぼくの国税局時代の知識と経験、芸人になってからの自己研鑽をこの1冊に詰めました。会社員が社会をサバイバルするために必須の知識のみを厳選。たのしく学べます」