ところが、ダイヤモンド・プリンセスでは、グリーンもレッドもぐちゃぐちゃになっていました。どこが危なくて、危なくないのかまったく区別がつかない。どこの絨毯や手すりが危ないのか、さっぱりわからない状態です。
船内の検疫官や医師、スタッフも防護服を着けたり、着けなかったり、マスクをつけたり、着けなかったりしていました。熱のある方が自分の部屋から出て、歩いて医務室に行くようなことが通常に行われていました。DMAT、厚労省、検疫官の方がPCR検査で陽性になったという話を聞いていましたが、これは無べなるかなと思いました。
医療関係者に聞いたら「我々も自分たちも感染すると思っていますよ」と言われて、びっくりしました。我々、医療従事者が感染症ミッションに出るときは、自分たちの身を守るのが大前提で、自分たちの感染リスクをほったらかしにして、患者さんや一般の方たちに立ち向かうのはルール違反です。環境感染症学会などが数日で出て行ったという話を聞いた時、船内の人たちが「自分たちが感染するのが怖かったんじゃない?」とおっしゃっていましたが、気持ちはよくわかります。
感染症のプロだったらあんな環境にいたら、怖くてしょうがないからです。
下船後、僕自身も隔離して、診療も休んで家族とも会わずにしています。
私がウイルスの感染を起こしていても不思議ではないからです。防護服や手袋があっても、そもそも安全と安全ではないところの区別をしていなければ、そんなものは何の役にも立ちません。レッドゾーンでだけ防護服をつけて、グリーゾーンで脱ぐということを遵守してはじめて、自らの安全を守れます。自らの安全が保障できない時に、他の方の安全は守れません。
検疫官が患者さんとすれ違って笑っていたりするんです。我々的には超非常識なことをやっている。しかも、そのことに対して、みんな何も思っていない。常駐しているプロの専門家もひとりもいません。
ときどき、専門家が訪れるそうですが、彼らも「やばいな」と思っていても、何も進言できないようです。(現場を仕切って)やっているのは厚労省の官僚で、同省のトップともお話しましたが、すごく嫌な顔をされて、聞く耳を持つ気がありませんでした。
「なんでお前がこんなところにいるんだ」「なんでそんなこというんだ」と非常に冷たい態度を取られました。DMATのカンファレンスで、夕方に僕が提言する予定だったのですが、電話がかかってきて、「検疫許可を取り消す」と言われました。厚労省の担当者に「岩田に対してむかいついた人がいる。出ていくしかない」と言われました。
「僕がいなくなったら、感染対策をするプロがいなくなってしまいますよ」「それは構わないんですか」と聞いたのですが。
前に環境感染症学会が入った際、DMATはいろいろ言われて嫌な思いをしていたそうです。しかし、彼らは大変なリスク下にいます。彼らは医療従事者ですから、自分たちの病院から感染が広がってしまいかねません。
アフリカや中国に比べてもひどい感染対策方法でした。シエラレオネのほうがよっぽどましでした。日本に米国の「アメリカ疾病予防管理センター(CDC)」のような機関がないとはいえ、まさかここまでひどいとは思っていませんでした。
専門家が責任をとって、リーダーシップをとってルールを決めてやっていると思っていたのですが、まったくそんなことはありませんでした。とにかく、多くの方にダイヤモンド・プリンセスで起きていることを知ってほしい。国際的な団体が日本に変わるように働きかけてほしいです。
(文・構成=編集部)