そのためには失敗のもつ肯定的な意味に目を向けさせることが大切だ。「このようにするとうまくいかない」「このようなことに気をつけなければならない」ということを教えてくれるのが失敗だ。同じ失敗を繰り返さないように気をつけることで、今後の成功確率は確実に高まる。失敗は今後の糧にできる。
ゆえに、子どもが何かで失敗したときこそ、失敗を前向きにとらえるように導くチャンスと言える。たとえば、試験前に友だちの誘いに乗って遊んでしまい、準備勉強ができずに試験で失敗したという子がいた。そのような失敗によって、次からは試験前には友だちの誘いに乗らないようにしなければならないとわかる。
競技直前に練習しすぎて、当日筋肉痛が酷く、実力を発揮できなかったという子もいた。そのような失敗によって、次からは直前に練習しすぎないように気をつければよいということがわかる。ピアノの発表会で緊張しすぎて演奏中に失敗をしてしまったという子もいた。落ち込むのは当然だが、気持ちの持ち方をコントロールする必要があるといった課題が浮上し、そこを克服できれば、つぎの機会には実力を発揮できるだろう。
子どもが何かで失敗したときは、当然悔やみ、落ち込むだろう。そんなとき、何気ない会話の中で、「失敗はだれでもするもの。失敗を恐れることはない。失敗したからこそわかることもある。大事なのは、失敗から学ぶことだ」ということに子どもの目を向けさせることが大切だ。いくら悔やんだり落ち込んだりしても失敗した事実は消せないが、大事なのは失敗を今後に活かすことであり、そのことを子どもの心に刻むことである。
何でもほめればいいといった風潮が、傷つきやすく落ち込みやすい心、頑張れない心を生んでいるということを指摘し、本連載でも警鐘を鳴らしてきたが、ほめるのがすべてよくないというのではなく、ほめ方の問題もある。
むやみにほめることの弊害を明らかにした実験として、次のようなものがある。その実験では、10~12歳の子どもたちに知能テストのようなものをやらせた。それはだれもが簡単に解けるような問題で、テスト終了後にすべての子どもたちは、優秀な成績だったと伝えられた。その際、子どもたちは、つぎの3つの条件に振り分けられた。
条件1.こんなに成績が良いのは「頭が良い証拠」だと言われる
条件2.何も言われない
条件3.こんなに成績が良いのは「一所懸命に頑張ったから」だと言われる
そして、これからやってもらう2種類の課題を用意し、それぞれの特徴を説明し、どちらの課題をやってみたいかを尋ねた。一方は、あまり難しくなくて簡単に解けそうな課題、つまり良い成績をとって自分の頭の良さを示すことができるような課題だった。もう一方は、簡単には解けそうにない課題、つまり良い成績をとって自分の頭の良さを示すことはできないかもしれないが、チャレンジのしがいのある面白そうな課題だった。
すると、どちらを選ぶかに関して、条件による違いが顕著にみられた。
条件1の「頭の良さ」をほめられた子どもは、67%と大半が簡単な課題を選んだのに対して、条件3の「頑張り」をほめられた子どもは、簡単な課題を選んだのは8%だけで、92%とほとんどが難しい課題を選んだのだった。条件2の子どもは、その中間だった。
このような結果からわかるのは、「頭の良さ」つまり「能力」をほめられると、能力の高さに対する期待を裏切りたくないという思いが強まり、期待を裏切ったらどうしようといった不安も強まって、確実に成功しそうな易しい課題を選ぶことになりやすいということである。失敗することを恐れるあまり結果にとらわれ、気持ちが委縮し、チャレンジがしにくくなるのだ。
一方、「頑張り」つまり「努力」をほめられると、努力する姿勢に対する期待を裏切りたくないという思いが強まり、もっと頑張らなくてはといった思いに駆られ、難しくて取り組みがいのある課題を選ぶことになりやすい。結果よりも努力するという姿勢にこだわるため、思い切ってチャレンジしやすくなるわけだ。
チャレンジする子にしたいと思うなら、ほめる際にも、うっかり心を萎縮させるようなほめ方をしないように注意したい。
(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)