人生最後の墓参りのつもりだったのが、旅行に行けたことで自信がつく。「今度は、孫を連れて桜を見に行こう」などという計画を立てると、そこからスイッチが入るのだという。
「旅行に備えて、行きたがらなかったデイサービスに行くようになったり、やりたがらなかったリハビリにも積極的に取り組むようになったりします」(篠塚氏)
はりあいが生まれることで、気持ちが前向きになるのだ。1泊旅行はもちろん、海外旅行を依頼するお客も少なくない。たとえば、「飛鳥Ⅱ南極・南米ワールドクルーズ」に参加した高齢者夫婦、ケニアに旅した最高齢88歳の女性、ビーチ用車椅子でハワイの海を楽しんだ常連客もいたりするそうだ。同社がスケジュールを組む個人旅行もあれば、ツアーにトラベルヘルパーが随行することもある。
常連客が亡くなったとき、篠塚社長は遺族から言われた。
「次は自分たちが利用する番になるから、そのときにはまた、よろしく」
「あ・える倶楽部」では、介護旅行だけではなく、時間単位の外出支援サービスも行っている。介護保険は日常生活上のサービスに限定されているため、それ以外の“楽しみ”の部分を支援している。たとえばコンサートや美術館巡り、街歩きなど。外出は家族ぐるみもあれば、本人だけを連れていくときもある。体は不自由でも比較的元気な高齢男性には居酒屋やキャバクラ、ショーパブ、メイドカフェに連れて行くこともあるそうだ。
こうして、うまくトラベルヘルパーを利用すれば、本人にとっても家族にとっても、いい息抜きになるのではないだろうか。愛情と責任感で追いつめられていくような介護からの解決策の一つとして、提案したい。
(文=林美保子/フリーライター)