日本国内でも次々と感染者が発見され、行政の後手に回った対応からパンデミック待った無しとも危惧されている新型コロナウイルス。
12日には、武漢から政府のチャーター機で帰国した男性2人に新型コロナウイルスの感染が確認された。さらに、13日には神奈川県内で80代女性が新型コロナウイルス感染者として国内初の死亡例と確認。この親族の70代タクシー運転手も感染が確認されている。
こうした報道が不安を呼んでいるのは、感染者の詳細が報じられないからだ。12日の例では患者の詳細は「埼玉県内」というざっくりとしたもの。13日の例でも同様に「神奈川県内」と発表されているだけだ。
とりわけ70代タクシー運転手の場合は、潜伏期間中に多くの乗客に感染を拡げている可能性が高い。この数週間に老人が運転するタクシーに乗った覚えのある人は戦々恐々としているはずだ。
感染者の詳細な情報が公表されない理由は、それを公表することで個人の人権やプライバシーの侵害になる可能性があるからだ。だが、感染症予防法では、蔓延防止のために正当な理由がある場合には、隔離のみならず健康診断や就業制限など個人の行動を制限することを定めている。従わない場合には罰則もある強力な法律なのだが、批判を恐れてか、そこまでの措置が取れないのが現状だ。
これに対して中国では、スマートフォン向けのアプリを使って日本では考えられないほどの「情報公開」が行われている。中国でメジャーなニュースアプリである「今日頭条」や「騰訊新聞」などでは、いずれもコロナウイルスに関する特設ページが開設され、リアルタイムで情報が更新されている。とりわけ情報量の多いのは「今日頭条」の特設ページ。
今日頭条は中国国内でもユーザー数の多いキュレーション系ニュースアプリであるが、真偽不明な個人ブログのようなニュースも多く拾うため、中国人も「あまり信用すべきでない」と評するアプリだ。日本でいう「まとめサイト」のような扱いをされている。ところが、コロナウイルスの特設ページに関しては、極めて充実している。
中国全土での患者数や発生地域がひと目で見られるほか、各病院で不足している物資と援助の願い。発症が疑われる場合に行くべき病院の案内などもすべて集約されているのだ。
これに加えて、感染者が確認された病院と、感染者の所在や使用した交通手段も掲載されるようになっており、接触の可能性がある人がすぐに対処できるようになっている。テレビ番組や新聞などの限られた情報源から、わずかな情報しか知ることができない日本国内に比べると、膨大な情報を得ることができる。
こうした情報公開が可能なのは、個人の人権やプライバシーよりも感染の拡大を防ぐ「公共の福祉」が重視されているからだろう。先日も、タクシー運転手の感染が確認された際には、このタクシー運転手の乗る車両の番号のみならず、潜伏期間中に乗車した人物の情報まで公開された。タクシー客のほとんどは、Wechatpayかアリペイでタクシー料金を支払っているため、それらのアカウント一覧が公開されたのである。これもまた、日本ではプライバシーとの兼ね合いからなかなか困難なことだろう。
また、こうした情報公開は各種の動画サイトでも進んでいる。中国のメジャーな動画サイトである「ビリビリ動画」などでも、コロナウイルスに関する特設ページが開設され、24時間関連ニュースが報道されている。今日頭条からもニュース動画はリンクされているが、視聴者数は常に数万人規模である。個人の行動を監視しているとか、検閲が実施されているなど、ネガティブなイメージの強い中国のインターネットだが、危機管理においては能力を発揮しているといえる。
プライバシーが重視され、どこで誰が感染したかもわからないまま、個人で予防するしかない日本に比べると、情報が得られるだけでも安心感はあるように思える。
(文=昼間たかし/ルポライター、著作家)