また、これからは人口減少ばかりでなく、都心部での再開発や、自宅や郊外のコワーキング・スペースを利用したテレワークの拡大、フリータイム制(フレックスタイム制)の拡大によるラッシュ時を外れた通勤が普及すれば、ある程度は混雑率が低下するであろう。
JR東日本は近年、輸送力の増強に加えて、着席サービスを拡大・多様化してきている。たとえば、着席料金が必要な通勤ライナーや特急料金の必要な通勤特急、近郊電車へのグリーン車の連結である。
令和5(2023)年、中央線の大月~東京間と青梅線青梅~立川間でグリーン車のサービスを開始する予定である。当初は、令和2(2020)年の計画であったが、御茶ノ水駅のバリアフリー工事との関係で遅れている。現在E233系10両編成のところ東京寄りから4両目と5両目にグリーン車を連結して、12両編成となる。あわせて6両目の普通車には、車いす対応のトイレが設置される。
平成29(2017)年度、中央線快速の中野→新宿間の最混雑1時間の旅客数が8万1,560人で、混雑率184%である。将来、旅客が1割程度減少すると混雑率は165%。グリーン車が増結されると普通車からグリーン車の定員数5,400人の旅客が移るとして、普通車の混雑率は153%となり、国の長期的な目標もクリアできない。
ここで、仮にグリーン車ではなく普通車を2両増結すると、混雑率は137%まで低下し、国の目標をクリアし、さらに1列車を増発すると、私案の127%もクリアできる。つまり、混雑緩和だけを考えると、グリーン車ではなく普通車を増結するほうが効果は大きい。しかし、それでは中央線の路線収支を悪化させてしまうというジレンマがある。
JR東日本においては、平成19(2007)年3月に常磐線の近郊電車でグリーン車のサービスが開始されて、現在のグリーン車のネットワークがほぼ完成したが、同年度の各路線のグリーン車による増収効果は、年間約130億円と計算された。中央線はラッシュ時だけでなく、昼間も比較的混雑することから、グリーン車の平均混雑率を50%とすると、年間50億円を超える増収と予想できる。
12両への編成増強には、車両の新造費用だけでなく、ホームの延伸、車両基地の留置線の延伸、汚物処理施設の新設など巨額の費用が掛かる。グリーン料金の増収額により投資費用を十分回収することができるし、さらに増益も期待できる。結果的にJR東日本は、混雑率と収支とのバランスで、グリーン車の増結というクールな決定を行ったのである。
令和2(2020)年3月のダイヤ改正で、中央線の快速の運転時間帯の拡大と、快速と各駅停車車両の運用の分離を行う大規模なダイヤ改正が計画されている。これは東京オリンピックのメイン会場の最寄り駅である代々木、千駄ヶ谷、信濃町駅にホームドアを設置するが、扉位置の異なる快速線の電車に対応できないためである。しかし、これにより快速電車の増結もスムーズに実施できることになる。また、オリンピック後に順次、中央線快速(東京~立川間)、各駅停車、総武線の各駅にホームドアが設置される計画である。
(文=佐藤信之/交通評論家、亜細亜大学講師)