冬の風物詩、おでん。いまやほとんどのコンビニエンス・ストアで、この季節の目玉商品としてレジ横の専用鍋でおでんが温められており、来店客の食指を伸ばさせている。ところが先月14日、ファミリーマートの一部の店舗で、おでん鍋ではなく、パックに入ったおでんを客が注文するたびに店員が温める販売形式が導入されて話題に。
目的は、具材の仕込みや鍋の洗浄といった従業員の作業の軽減や、食品ロス削減の狙いもあるという。従来の“むき出しスタイル”に抵抗があった一部の消費者からは歓迎されるであろう。一方、レジ横で温められていることで購買意欲を刺激されていた層からの購入は期待できなくなり、売上の減少も考えられる。
なぜそこまでして、ファミマは従業員の負担と食品ロスを減らす一手を打ったのか。立教大学経営学部教授でマーケティングが専門の有馬賢治氏に話を聞いた。
「企業が避けたいもののひとつに、在庫がなかったり、店舗側で準備ができなかったりして販売機会を逸してしまう『チャンスロス(機会損失)』があります。しかし、最近ではコンビニのクリスマスケーキや恵方巻きなど季節商品を予約制にする動きが顕著です。これはさまざまな意味で、チャンスロスよりも廃棄コストが上回る時代がやってきたということでしょう」(有馬氏)
かつてはブランドイメージの維持のために廃棄処分を是と考える傾向があったが、現代では通用しなくなってきた、と有馬氏。
「深夜にコンビニへ行ったとき、お弁当類が充実していれば店舗への期待は増すでしょうが、その裏では大量の廃棄処分がなされているのも現実です。以前配信した『バーバリー、年間42億円分におよぶ自社商品廃棄の「本当の理由」』では、かつてバーバリーはブランドイメージを維持するために在庫商品を大量廃棄していたことにも触れましたが、こういった企業活動が社会的に受け入れられなくなってきたのです」(同)
確かに、売れ残った恵方巻などが写真付きでTwitterに投稿され、物議を醸すケースも最近ではよく目にする。2015年に国連で採択された「SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)」の国際社会17目標のうちのひとつ「つくる責任 つかう責任」(持続可能な消費と生産パターンを確保する)では、食品ロスに対して自治体や企業の責務を明確にしている。日本の食品ロスは世界一ともいわれ、改善を願う国民の意思もあるだろう。
この流れの中で、これまでの通りのやり方をし続けるのは得策とはいえないようだ。
「企業は良いブランドイメージの構築のために、時代に応じて施策を変える必要があります。これまでは利便性追求のため、廃棄が出てもチャンスロスをつくらないことを優先させていました。ですが、現代では食品廃棄で悪いイメージをつけないことが重視されているのです。
他方、大手コンビニ本部とフランチャイズ店オーナーが揉めているニュースをよく耳にしますが、世間は弱者であるオーナーの味方なので、本部が争いや強い措置を行使してもマイナスイメージがつきやすい時代です。“企業市民”という言葉がありますが、企業は利益を追求する以前に社会的規範を遵守する“よき市民”であることが求められているのです」(同)
おでんのパック販売は食品廃棄を抑える面もあるが、従業員の作業を軽減させることで、現場のアルバイトや加盟店オーナーの視点に立っているというアピールにも一役買っている。しかし、企業は大きくなればなるほど業績面での成長が期待されているのも頭の痛いところ。
「ですから、今後多くの企業は、社会の持続と企業の成長の均衡点を模索するような時代になるのではないでしょうか。社会との共存を無視した企業はやがて淘汰されるでしょうし、一方で慈善事業ではないので利益は度外視できません。難しいですが、短期的に利益が縮小しても、中長期で組織全体の成長が期待できる戦略を企業は考えていかなくてはなりません」(同)
大量消費主義の恩恵に浮かれてきた日本を含む先進国。その転換期を迎えて企業はどう対応するのか。倫理と経済活動の狭間に取り残されないためにも、企業だけでなく、国民一人ひとりが考え方をアップデートしなくてはならない時代に突入したようだ。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)