特別な“功”があって5年で2階級特進して課長クラスになったとか、何か失敗をしでかして課長クラスから降格したなどというケースを聞いたことがない。要するに、“功”があろうがなかろうが、普通に出勤して普通に勤務さえしていれば、昇進や昇給にほとんど差はつかなかったというわけだ。
逆に、「何であの人が課長?」とか、「なんであんなのが部長?」という例も多々見たように思う。これなどは、“年序列”を示す格好の事例であろう。恐らく、日立以外の企業でも似たような状況なのではないか?
東京商工リサーチの調査によると、上場企業が2019年に募集(または社員が応募)した早期・希望退職者は35社の計約1万1000人だったという(1月13日付日本経済新聞より)。この企業数も人数も2018年(12社、4126人)の約3倍にのぼり、電機メーカーが苦境に陥っていた2013年(54社、1万782人)を6年ぶりに上回る模様だ。
しかも、上記35社のうち、20社(約9100人)は最終損益が黒字であるにもかかわらず、リストラ(という名目の首切り)を行うという。このような「黒字リストラ」を断行する理由として、前出日経記事には以下のような説明が記載されている。
<年功序列型の賃金体系を持つ大手企業では、中高年の給与負担が重い。厚生労働省によると、大企業では50~54歳(男性)の平均月給が51万円で最も高く、45~49歳も46万円だった。昭和女子大学の八代尚宏特命教授は「人手不足に対応するには中高年に手厚い賃金原資を若手に再配分する必要がある」と指摘する>(原文ママ)
筆者の意見は違う。日本企業は長期間に渡って“年序列”型の賃金制度を維持してきた。“功”の有無にかかわらず、“年”だけで昇進・昇給を行ってきた。その結果、本当に能力がある者も、可もなく不可もないその他大勢も、まったくの役立たずも、ほぼ同列に扱うことになってしまった。その“年序列”の弊害が噴出し、「黒字リストラ」なる珍妙な経営を行う羽目に陥ったのではないか?
日本では、少子高齢化の進行に拍車がかかっている。その影響で、15~64歳の生産年齢人口は、急激に減少している(図4)。生産年齢人口は、1995年の8716万人でピークアウトした。その後、2000年に94万人減って8622万人になり、2010年にさらに519万人減少して8103万人になり、2020年には697万人減って7406万人と、坂道を転がり落ちるように減少してきた。
このままいくと、2030年には2020年より531万人少ない6875万人となり、2040年にはさらに897万人減って5978万人に、2050に年にはさらに703万人減の5275万人になる。現在、日本中から「労働力が確保できない」という悲痛な声が聞こえてくる。ところが、その一方で、日本の大企業が「黒字リストラ」という珍妙な人員削減を行っている。
もっと言えば、多くの大企業が55歳前後になったというだけで、役職定年という制度を適用し、部課長の職位を取り上げ、年俸を2~3割減らしている。そして、60歳になると本当に定年となり、その後、希望があれば1年ごとの契約で65歳まで働くことができるが、その給料は図3で示した通り、30%も削減される。これらはすべて、旧態依然とした“年序列”を行っているにすぎない。
ある仕事を遂行するのに、年齢も、性別も、学歴も、正規か非正規化も、一切関係ない。その能力がある者に仕事を任せ、その“功”に見合う報酬を支払えばいい。要するに、真の意味での“年功序列”を行えばいいのである。
「それは難しい」などという社長は、図1や図2に示したプロ野球の選手の年俸を見ていただきたい。5~6億円のスタープレーヤーもいれば、500~600万円の選手もいる。二桁も年俸が異なる選手たちが同じグラウンドで野球をやっているじゃないか。会社という場で、同じことができないはずがないだろう。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)