中国湖北省武漢市で発生した「新型肺炎」が日を追うごとに猛威を振るい、すでに60人近い死者が出るなど、その感染の勢いはとどまることを知らない状況だ。感染症の権威である香港大学教授・新発伝染性疾病国家重点実験室の管軼主任は武漢市内を現地調査したあと、中国メディア「財新網」に対して、新型肺炎の感染規模は「重症急性呼吸器症候群(SARS)の10倍以上で、感染源は中国全土に拡大しており、今回の状況に恐怖を感じたほどだ」と指摘。すでに、海外でも発症者が出ていることから、世界的規模での感染拡大が懸念されるという。
筆者は中国が春節(旧正月=今年は1月25日)の大型連休に入った24日、東京・渋谷区内の中華レストランで知人と夕食をとったが、高級な部類に入るそのレストランは中国人の団体客でごった返していた。夫婦とその子供、祖父母の3世代で来ている観光客も見受けられたが、彼らは大声で中国語をしゃべっており、新型肺炎流行のニュースが報じられていることもあって、ほかの客は彼らを遠巻きにしてみているという感じだった。実際に中国では多数の死者が出ており、感染者数が1日で100人以上増えることもあり、居合わせた客たちが神経質になるのは仕方ない。
前出の管教授は現地の状況について、「武漢の空港でも、床が消毒されておらず、スタッフが手で体温計を持って乗客の体温を測っている。空港内に消毒液が設置されているところはわずかで」であり、武漢市が23日未明に市を封鎖すると発表したことについても「感染拡大防止の時期を過ぎてしまっており、感染防止の効果はもはや楽観視できない」と断定しているほどだ。
この原因は中国共産党指導部の対応の遅さにあるといっても過言ではないだろう。すでに、昨年12月8日に最初の感染者が出たことを把握していたのに、習近平国家主席が初めて重要指示を出したのは、それから40日以上も経過した1月20日だったからだ。発生当初からしかるべき手を打っていれば、ここまで絶望的な事態に陥らなかったのは間違いない。
さらに、最近になって、新型肺炎の病原菌は武漢市内で売られていた食用のヘビだったのではないかと伝えられているが、これも管教授らが調査した結果であり、この間、武漢市当局はまったくなんの対応もとっていなかったことが明らかになっている。
このようななか、異例と思われるほどの迅速な対応をとったのは北朝鮮だった。朝鮮労働党機関紙の労働新聞は22日、感染が広がっている中国の状況と中国政府の対応を詳しく報じるとともに、国境を封鎖して外国人の北朝鮮観光を一時中断する決断を行った。北朝鮮が最も広く国境線を接している国は中国だけに、この「外国人」とは中国人にほかならない。
北朝鮮で新型肺炎が流行すれば、現段階では有効な薬もないなか、大げさに言えば、それこそ国家の存亡にかかわるだけに、金正恩労働党委員長の決断は正しいといわざるを得ない。100年以上も前の1918年3月、いわゆる「スペイン風邪」と呼ばれた悪性インフルエンザの大流行につながる症状が初めて記録され、その後、19年にかけて当時の人類の3割も当たる5億人が感染し、5,000万~1億人の死者が出た。余談だが、トランプ米大統領の祖父がその感染によって命を失っている。
英BBCは「同じような規模の大感染は今後もあり得ると考える研究者もいる。医療や通信技術が100年前に比べて格段に進歩した現代社会は、その一方で移動手段の発達で100年前より狭い世界になっている」と指摘するほどである
実は、このような実態は日本も同じだということを忘れてはならない。隣国が感染源なのだから、日本に被害が及ばないことは考えられないからだ。自分で自分の身を守る以外に方法がないのは、言わずもがなであろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)