ファッション業界では、気温が10度になるとコートが売れだすといわれています。店頭では11月の勤労感謝の日から12月のクリスマスまでが需要が最も高まるシーズンです。しかし昨年も暖冬などでコートをはじめ洋服の売上不振が11月、12月と続きました。年末からセールが前倒しになった一因でもあります。
こんな時期にこそ、単価の張るコートを安く購入しない手はありませんが、セール時の着回しが利くコートの選び方というのは、意外と知られていません。今回は、ビジネスシーンだけでなくカジュアルにも着回せるデザインという観点で、タイプ別にお勧めの5種類のコートをご紹介します。
セール時期に販売する商品には、数種類の商品が混在します。最初に、なぜセール販売が行われるかを解説します。
通常、ファッション業界では消化率(製造商品の正価販売率)を設定して製品をつくります。例えば、消化率の設定が6割ならば、その前提で正価商品販売で採算がとれるように価格を設定しています。悪く言えば4割は売れ残ることが想定されているのです。つまり残り4割の販売額が利益となり、在庫を来シーズンに持ち越さないように値引き販売するわけです。
セール商品は一般的に3種類に大別できます。一番お得な今シーズンの商品(プロパー商品)の値引き商品。概ね3割引きから半額の販売価格となっています。次が昨年以前の持ち越し在庫です。簿価(帳簿上の原価)も決算時に落としているので、概ね均一価格での販売か半額以下で販売されます。
3番目は、昨今多くなったアウトレット店に多い販売価格に合わせたセール用の商品です。元来の販売価格から値引きするのではなく、もともと割安な価格で販売するための商品です。本来、サイズやカラー的に売れ残った商品が値引き販売されるのですが、この手の商品はサイズ、カラー共に全ラインナップが揃って売られている場合が多いです。値札を見れば先日まで店頭に並んでいたものか、セール用に追加されたものかはわかります。
ビジネスコートのように、ほとんどデザインに大きな変化のない定番商品だと、一般に大きな差は見いだせません。価格を優先するのか、セール時でも妥協をしないかは個人の価値観次第でよいと思います。では、具体的なお勧めコートを次項で紹介します。
・チェスターコート
元来は19世紀から普及した、スーツにネクタイを締めたスタイルに着用するフォーマルなコートでした。現在ではもっとカジュアルなスタイルにも合わせられます。クルーネックのセーター、デニムスタイルにもコーディネートを広げてください。
・ステンカラーコート
ラグランスリーブ、フライフロント(比翼仕立て)、膝丈のベーシックなデザインでビジネスコートの定番。インナー裏地の取り外しが可能なタイプも多い。こちらもカジュアルスタイルにも合います。
・トレンチコート
ダブルブレスト、ウエストベルト付きのコート。ハリ感のあるコットンツイル生地が用いられています。第一次世界大戦時にイギリス陸軍で採用されていたコートが起源となっています。トレンチとは塹壕の意味です。
・ピーコート
イギリス海軍の船員が着用していたコート。厚手で目の詰まったメルトン生地が風を通さず暖かさを守る。左右どちらにも上前が変えられるダブルブレストで、風向きに合わせて留め変える。ハンドウォーマーポケットに大きな襟、いかりマークの大きなフロントボタンが特徴的です。
・ダウンコート
羽毛(ダウン)入りでキルティング加工を施したコート。軽量で暖かい点が一番の特徴です。極寒地の防寒着や作業着に使われ、スポーティーかつカジュアルなデザインが主流でしたが、現在では街着やビジネススタイルにも合うデザインも多くみられ、オールラウンドになりました。
現在、メンズコートは同じデザインでも数千円から何十万円までの幅広い商品があります。販売店やブランドなど幅広い選択が可能です。お得なセール時期にご自身がお気に入りのものを、1~2着を見つけてください。そして、お気に入りコートで寒さに負けずに前向きな日々を送っていただければと思います。
(文=たかぎこういち/タカギ&アソシエイツ代表、東京モード学園講師)