次に、移民政策である。移民で人口減少のどの程度を補うことができるのかを把握するのに役立つのが、国連経済社会局人口部が2000年に公表した「補充移民」の試算結果である。この試算は、国連が、フランス・ドイツ・イタリア・日本・イギリス・アメリカなどの先進国を対象に人口水準の維持や高齢化進行の回避に必要な移民流入数の推計をしたものである。
この推計では5つのシナリオを分析している。具体的にはシナリオⅠからシナリオⅤで、このうち「シナリオⅠ」は、1998年改訂の国連人口予測における中位推計をベースラインとするものである。また、「シナリオⅡ」は1995年以降に移民の流入がないもの、「シナリオⅢ」は1995年以降における総人口ピークの水準を維持するものである。また、「シナリオⅣ」はシナリオⅢと同様にピーク時の15~64歳人口を維持するもの、「シナリオⅤ」は同様にピーク時の15~64歳人口の65歳以上人口に対する割合を保つものである。
各々のシナリオについて、必要な移民流入数を推計し、2050年までの移民総数や平均年間移民数を比較している。このうち、総人口ピークの水準を維持するシナリオⅢでは、日本が必要とする移民数は2050年までの累計で1714万人(年間平均34万人)であり、生産年齢人口(15~64歳人口)を維持するシナリオⅣでは累計3233万人(年間平均65万人)もの移民を必要としている。また、高齢化進行の回避を目指すシナリオⅤでは、2050年までに累計5億2354万人、期中の年間平均でも1047万人の移民の流入が必要で、その回避には、非現実的な水準の移民数を必要とする。
出生数90万人割れはまだ序章にすぎず、人口減少が本格化するのはこれからが本番だ。政府は改革の司令塔として「全世代型社会保障検討会議」を設置し、全世代が安心できる制度改革の方向性の議論を行い、2020年夏までに最終報告を取りまとめる方針だが、少子化対策に資源を投入しながら、年金・医療・介護をはじめ、人口減少に適合した制度(医療版マクロ経済スライドの導入を含む)に抜本的に改める政治的な努力を期待したい。
(文=小黒一正/法政大学教授)