父娘の“骨肉の争い”の果てに、大塚家具はヤマダ電機に身売りすることが決まった。ヤマダは大塚家具に43億7400万円出資し、51.74%の株式を握り子会社にする。
2019年12月12日、大塚家具の大塚久美子社長はヤマダの山田昇会長と共に記者会見を行い、「部屋の中には家電も家具もある。それをトータルで提案する。日本の住生活の向上に一番いいことをするための提携だ」と笑顔を見せながら語った。
だが、内実は厳しい。大塚家具は創業者の大塚勝久氏と長女の久美子氏の対立でブランドが毀損。14年からは赤字が続き、15年に110億円あった現預金が19年9月末には21億9000万円まで減った。ここ3カ月で9億円が流出しており、このまま手を打たなければ20年3月末までに手元資金はほぼ枯渇しかねない。資金ショートの崖っぷちに立たされていたことになる。財務諸表には企業の存続に疑義が生じたことを示す「継続企業の前提に関する注記」がついたままだ。
ヤマダ傘下入りに決まるまでの経緯は、誤算続きだった。
17年以降、資本・業務提携している貸し会議室大手のティーケーピーをはじめ、ヨドバシカメラやヤマダなどの家電量販店にも増資引き受けを求めたが、出資比率などで折り合わず頓挫していた。ヤマダとは19年2月に業務提携にこぎつけた。
18年12月には中国の最大手、「イージーホーム」を展開する居然之家(北京市)と、日中間の越境EC(電子商取引)のハイラインズと業務提携。米投資ファンドと合わせて合計76億円の資金を調達すると公表した。3月4日、大塚社長とハイラインズの陳海波社長は日本外国特派員協会(東京)で記者会見を開いた。大塚社長は「守りから攻めに打って出る体制が整った。日本から一歩、歩みだす」と大見得を切った。陳社長は「日本だけでなく中国の富裕層の取り込みを目指す」と資本・業務提携の狙いを語った。
大塚家具の中国資本への事実上の身売り宣言といえるものだった。3月31日に開かれた株主総会で“新しいオーナー”となる陳社長の主導で大塚家具の経営再建が図られることになり、人事も刷新された。ところが、新体制は出足からつまずいた。ハイラインズが率いるファンドは「中国当局の認可を得られない」との理由で、直前になって資金の払い込みをキャンセル。実際に調達できたのは26億円にとどまった。中国向けのビジネスは一向に動き出す気配がなかった。大塚社長の経営力を評価していなかった陳社長は、「父・勝久氏との和解」を支援の条件としていたが、和解できなかった。
ハイラインズが事実上、手を引き、ピンチに陥った大塚家具に救済の手を差し伸べたのがヤマダだった。
ヤマダの狙いは住宅事業の補完だ。11年、注文住宅のエス・バイ・エル(現ヤマダホームズ)を買収して、住宅事業に進出した。12年には住宅機器のハウステックを買収。リフォームに特化した住宅事業を非家電事業の柱に据えた。
家電量販店のビジネスモデルのまま、リフォームも安売り路線で突っ走った。大量受注したものの、施工業者の人手不足で施工が追いつかず、赤字経営が続いた。
「そこで、大塚家具を取り込んで、安売りをやめて再び高級路線を目指す。というのも、もともとエス・バイ・エルは高級注文住宅が主力だった。しかし、ヤマダが買収した後、経営陣を全部入れ替え、ヤマダから送り込んだが、家電の安売りしかやったことのない人たちなので、安価なリフォーム事業に走ってしまった」(小売担当のアナリスト)
ヤマダは、家具に本格的に進出するが、家具市場にはニトリホールディングス(HD)が待ち構えている。家電の王者・ヤマダと家具の帝王・ニトリHDは、ここへきて業態が急接近してきた。山田昇氏、似鳥昭雄氏というカリスマ創業者が率いる両社のガチンコ勝負が今後、展開される。
大塚家具では、久美子氏は社長にとどまる。
「ヤマダの子会社になることを受け入れる代わりに、社長続投を条件にした可能性がある」(大塚家具の元幹部)
12月12日の記者会見で、ヤマダの山田会長は「ウチは結果主義。黒字にするというからやらせる。チャンスを与えないといけない」と述べた。20年4月期決算(12月決算から4月決算に移行。16カ月の変則決算)は水面下に沈んだままだが、「21年4月期決算で黒字にできなければ、大塚社長はクビ」(業界筋)だとみられている。
次の21年4月決算の折り返し点は今年10月。ここで黒字転換できないと通年での黒字化は厳しくなってくる。創業者である大塚家一族の経営は終止符を打たれ、大塚家具は“ヤマダ家具”となるのか。
大塚家具はこの10年近く、経営路線をめぐり父と娘の対立が続いた。この間に低価格路線をとるニトリやイケアが家具市場を席巻した。これが壮絶な父娘バトルの結末である。喧嘩両成敗といってしまえばそれまでなのかもしれない。
(文=編集部)