では、解約したいときの手続きから説明しよう。休眠預金の際に、筆者が行った体験をベースに説明していく。まず、銀行の合併により、通帳に書いてある銀行名が今どうなっているか不明の場合は、全国銀行協会の「銀行変遷史データベース」で調べるといい。現在引き継いでいる銀行がわかれば、そのホームページに行って「長い間使っていない口座」等を検索すると、手続きが載っている場合もあるし、なければカスタマーサービスなどに問い合わせよう。メガバンクの場合は、最寄りの支店で解約手続きができることが多い。
手続きに行くなら、とにかく関係ありそうなものを全部持っていくほうがいい。通帳、キャッシュカード、印鑑(銀行届出印が望ましいが、どれかわからない場合は別の印鑑でもいい。再登録するために必要になる。旧姓でつくった口座なら現在の姓の印鑑も)、本人確認書類(現住所がわかるもの。女性で姓が変わっている場合は戸籍抄本も取っておく)など、二度手間を防ぐために用意できるものは全部だ。
また、古い口座を開いたときの住所を聞かれることがあるため、昔の住所録や当時の年賀状が残っていれば、それもあるといいかもしれない。これだけ揃っていれば、口座の現在の状況や残高がいくらあるかは調べてもらえるはずだ。
ただし、口座を開いた支店そのものがなくなっていたとすると、本部へ照会するために少し時間がかかることもある。筆者の場合も、古い口座のひとつが今は存在しない支店のもので、どこの支店に口座が移ったかすぐに判明しなかったため、その日は帰宅し連絡を待つことになった。そうやって調べてもらってわかった残高を引き出すにも、届出印が手元になければ新しい印鑑を登録し、それを使って下ろすという手続きが必要となる。解約するにもなんだかんだと手間と時間はかかるのだ。
なお、解約せずに口座を復活させる場合は現住所に変更したり、既婚女性が独身時代の口座を使うなら氏名変更および印鑑の変更もしなくてはならない。やたらと何枚もの書類を書き、やっとゴールにたどり着ける。筆者は記事を書く目的もあって実行したが、普通の人はかなりへこたれるだろうし、そもそも平日の銀行窓口にのんびり出かける時間などあるのかが疑問である。
今回の口座管理手数料問題は、マイナス金利の影響で銀行が稼ぎにくくなったとか、使っていない口座の維持コストがバカにならないとか、いろいろ言われているが、それは我々利用者のせいなのだろうか。
そもそも、積極的に自分から○○銀行に口座を開きました、という人は少数派だろう。アルバイト先、勤務先、家賃の支払いのためにと、その銀行と支店を指定されたから、自然と増えていったはずだ。
筆者も、当時勤めていた会社に給与振込口座のほかに経費精算用の口座をつくれといわれ、指定された支店に社員全員がつくらされた。さらに転職先でも同じことが起き、給与振込先が三菱UFJ銀行だというのに、同行の別の支店で新たにつくれという。そのせいで、結局同じ銀行に4つくらいの口座があるが、自分で開いたのは大学時代のひとつだけだ。
同じ銀行のはずなのに、融資先との関係が支店ベースだからという理由で、どんどん口座が増えていくのが日本社会の現状だ。これをユーザーが口座を解約せず放置しているのが問題だ、住所変更もろくにせずに怠慢だから口座維持手数料を取ります、というのはどうにも解せない。
銀行は口座維持コスト云々を言うなら、いっそ支店をなくして今後は通し番号にしたらどうなのか。それなら同行内で口座もひとつ、通帳もひとつで、口座売買も防げる。ウィンウィンでみなハッピーではないか。どうせ近い将来マイナンバーで名寄せをするつもりなのだろうから、銀行側もシンプルな設計に変えてはいかがだろう。そういう改革なら、我々のほうには不利益なく、何も困らないのだから。
(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)
●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム」