Netflix「日本ついに1000万世帯超え」は吉か凶か

なかでも、グローバルで好成績を残したのが『シティーハンター』です。2024年4月22日週のグローバル「Netflix週間TOP10」映画部門(非英語)で日本オリジナルの念願でもあった1位を獲得。複数の国で「Netflix週間TOP10」リストに載り続けました。さらに、ロケ地で経済効果も生んでいます。神戸市で長期間にわたって撮影したことによって、同市過去最高の4億円超えの経済効果をもたらしたことが報じられています。

エンディングソングにTM NETWORKの「Get Wild Continual」が起用されたことで、オリジナルの「Get Wild」のカラオケランキングが急上昇し、Spotifyでは月間リスナー数がほぼ倍増する結果も作り出したとか。

歌も売れてしまう現象は作品のヒットを妙に実感させもします。Netflix英語シリーズ歴代1位の「ストレンジャー・シングス」シーズン4が配信開始された当時、ケイト・ブッシュの「神秘の丘」が37年ぶりにアメリカ・Billboard Hot 100のトップ10入りに返り咲いたことがありましたが、日本の作品からもそんなトレンドが作られ始めているのです。

ランキングではそう目立たなかったものの、熱量の高さの表れとして歌がヒットする事例もあります。ゲイのリアリティショー「ボーイフレンド」のテーマ曲がまさにそれ。「Dazed & Confused」を歌う韓国のアーティストのGlen Checkは日本ではほぼ無名だったのにもかかわらずSpotify Japanバイラルトップ10で2位まで上昇し、作品人気を裏付けています。

「ボーイフレンド」
熱量が高かったゲイのリアリティショー「ボーイフレンド」はテーマ曲もヒットにつながった(画像:Netflix)

韓国の成功と失敗を学ぶ

強力な作品投入の手を止める気配はありません。12月26日には「イカゲーム」シーズン2、2025年1月9日には是枝裕和監督が手掛ける向田邦子原作ドラマ「阿修羅のごとく」の配信を控えています。「阿修羅のごとく」はNetflix日本オリジナルの作品。宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずが4姉妹を演じます。高い評価が期待される作品の1つです。

「阿修羅のごとく」
強力作の投入が続く。広瀬すずらが出演する是枝裕和監督が手掛けるドラマ「阿修羅のごとく」が2025年1月9日に全世界独占配信される(画像:Netflix)

会員数1000万件超えの勢いに乗って、日本のテレビ・映画業界の常識を覆していく動きにつながっていくかどうかも気になるところ。お隣の韓国ではNetflixの収益はテレビ局のそれを上回る規模に成長し、労働環境の改善にも貢献しています。

例えば、撮影時間の1日上限の12時間、週52時間というルールがNetflixの作品に限らず、どの現場でも守られるようになっています。制作日数が延び、コストがかかりますが、その分の予算を確保する動きにつながっています。「イカゲーム」の世界ヒットが韓国の制作環境をガラリと変えたのです。

一方で、韓国では出演料の高騰やストーリーの枯渇といったデメリットも生んでいます。こうした一歩先行く韓国の背中を追いながら、プラス要素は取り入れつつ、失敗から学びを得るのが理想です。Netflixの坂本氏もこれに同意する考えを示しています。カギを握るのは「予算の組み立て方」だそうです。

「日本の場合、“制作費をこれ以上かけたら、回収できない”と考えがち。それよりも1つひとつ適正な予算を整理し、合意のうえで担保していくほうがいい。これによって制作環境を整えることができ、さらに実績を積み重ねれば、作品の表現の幅を広げていくことができるのです。丁寧にこのやり方を広めていきながら、最終的には業界のイノベーションにつなげていきたい」

Netflixが目指すゴール

競合のAmazonプライム・ビデオと並ぶ規模になり、国産トップのU-NEXTを大きく引き離していますが、会員数1000万というポジションを意識しすぎることは「決してない」とも坂本氏は言い切っています。潔い答えは続きました。

「Netflixの現在地は道半ば。ようやく動画配信サービスが生活に根付き始めたなかで、目指すゴールは生活に必要な存在になることです。世の中にはさまざまな興味があふれかえっています。それでも“Netflixが必要だよね”と思われる存在になることのほうが数字よりも重要だと思っています」

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